どうやったら、オリジナリティのある企画を考えられるようになれるのか…?
この問いに対して、佐渡島さんは、型破りなオリジナリティを生み出すためには、定番の型を深く理解することが大切だと言います。
「いきなりゼロから新しいものを生み出そうとしても大抵うまくいかない。そもそも“型破り”というのは、読んで字の如く、型を破ること。型を抑えていない人は、永遠に型は破れない」
今月の『企画のおすそ分け』では、「物語設定の定番の型を深く理解する」をテーマに、幾つかの型をピックアップし、それぞれの型への理解を深めていきます。
3週目となる今回は、定番の型のひとつである「サスペンスもの」についてです。
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サスペンスの要素を加えると、作品離れを防げる?
(以下、佐渡島さん)
今回、理解を深めたい定番の型は「サスペンスもの」です。
サスペンスとは、観客の心を宙吊りにするという意味です。読者に謎を提示し、その答えがわからない宙吊りの状態のまま物語が進行していきます。
謎に惹かれた読者は、答えを求めて作品をどんどん読み進めます。読者を宙吊りにすることによって、作品離れが起こりづらくするというのが、サスペンスの特徴のひとつです。
現在は、世の中で流通しているエンタメコンテンツが膨大にあり、読者の気持ちが移ろいやすい時代です。そのため、作品離れを防ぐ意味でも、様々なジャンルでサスペンスの要素が取り入れられているように見えます。
そんなサスペンスものの大前提として気をつけたいことは、余分な情報を作中に入れ過ぎないということです。
サスペンスを読む際、読者は作品に描かれている全ての情報が、謎を解くヒントや先の展開への伏線になっているかもしれないと思って読んでいます。
そのため、情報量が多すぎると、読者にかかる記憶の負荷が大きくなりすぎてしまう可能性があります。
この描写が魅力的だから描きたいと思ったとしても、謎解きに関係ないものであれば、多くを描き過ぎないことが大切です。
その謎は、読者が答えを知りたいと思うのだろうか?
(以下、佐渡島さん)
そして、サスペンスものの最大のポイントは、謎がどれだけ読者の興味を惹きつけられるかです。
例えば、作中で殺人が起きたからといって、読者にとって全く知らない人物の殺人事件では、読者が興味を持つことは難しいでしょう。物語の冒頭に、死体があったと言われても、それだけで話に関心を寄せることはできません。
サスペンスでは、謎解きのトリックが重要だと思われがちですが、「この謎の答えを知りたい」という謎への興味喚起が一番重要なのです。
宇宙兄弟のシーンを例に、説明しましょう。
JAXAの宇宙飛行士選抜試験において、閉鎖環境の施設内で、福田さんという登場人物が、試験において重要なアイテムであった時計を、他のメンバーには内緒で壊す場面があります。そして、福田さんが壊したことを主人公のムッタと読者だけが知っています。
ここで読者に提示した謎は「なぜ、福田さんは時計を壊したのか?」です。
この時、福田さんが犯人だと読者には伝えず、「閉鎖環境の施設内にいる5人のうち、時計を壊した犯人は誰か?」という犯人探しの謎解きにすることも、物語の演出としては可能です。
ですが、福田さんのキャラクターとしての魅力が既に作中に描かれていたので、「今回の試験に必死な想いを持っている福田さんが、なぜこんなことをしでかしたのか?」という謎のほうが、読者の興味を強く惹くだろうと思ったのです。
このように、謎を提示するにしても、謎の見せ方・演出次第で、読者の興味が全く変わってきます。
この謎は、読者の興味を強く惹くことができるのか?
どういう風に演出すると、答えが知りたくなる謎として読者に映るのか?
サスペンスを考える際には、この問いを常に頭の中で繰り返しながら、企画を立てていくことが大切です。
(翌週へ、続く)
聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム
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