どうやったら、オリジナリティのある企画を考えられるようになれるのか…?
この問いに対して、佐渡島さんは、型破りなオリジナリティを生み出すためには、定番の型を深く理解することが大切だと言います。
「いきなりゼロから新しいものを生み出そうとしても大抵うまくいかない。そもそも“型破り”というのは、読んで字の如く、型を破ること。型を抑えていない人は、永遠に型は破れない」
今月の『企画のおすそ分け』では、「物語設定の定番の型を深く理解する」をテーマに、幾つかの型をピックアップし、それぞれの型への理解を深めていきます。
最終週となる今回は、定番の型のひとつである「ファンタジーもの」についてです。
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最もマンガ家としての技量と気力が問われる型
(以下、佐渡島さん)
最終週の今回は、作品をつくるのが最も難しい型について話をします。
それは、ファンタジーものです。
ドラゴンボール、ワンピース、ナルト。異世界を扱う作品はマンガとして定番中の定番ですが、ファンタジーものはマンガ家の技量が最も問われます。
なぜなら、ファンタジーものを創作するには、物語の舞台となる世界をとても丁寧に作り込む必要があるからです。
その世界には、どんな種族がいて、どんな生き物がいるのか?
それぞれ、どんな肉体をして、どのような服を着ているのか?
どんな倫理観があって、善悪の判断はどうなっているのか?
マンガ家は、その世界の住人のように、全て詳しく話せるようにならないといけません。
宇宙兄弟の作者である小山さんも、ムッタたちが住んでいる近未来の世界が頭の中にアナザーワールドとして存在していて、まるで見てきたかのように話します。
そして、ファンタジーものであれば、僕たちがいる現実世界から一層遠く離れたアナザーワールドを構築しないといけません。
マンガ家は、自分が創造したアナザーワールドに読者を連れていくわけですが、そこが支離滅裂な世界になっていると、読者は混乱に陥ります。設定に矛盾を感じたり、先の展開が全く予想できないほど何でもアリになってしまうと、読者は物語についていけません。
そういったルールづくりも含めて、ファンタジーものは世界観の作り込みがものすごく重要なのです。
それが完成した後、やっと、どんな物語を描くのかという企画に入っていきます。ファンタジーの世界の中で、バディものを描くこともあれば、サスペンスをやるという選択肢もあります。
このように、他の型と比べて、ファンタジーものは創作することが本当に大変で、作家の技量と「描きたい」という気力が一番試される型なんです。
ただ、それでもファンタジーに挑戦する価値はあります。
その理由は、国境の壁を超えて、世界で親しまれる物語になりやすいからです。
ドラゴンボール、ナルトなど、海外で人気のある日本の作品は、ほとんどがファンタジーものです。ファンタジーは、その世界が緻密に設計されていれば、世界中の人が楽しむことができます。文化の差を超えやすい物語です。
そのため、マンガ家としての技量が上がってきたら、ファンタジーものに挑戦するというのは、とても価値ある挑戦だと僕は思います。その挑戦に備えて、今から頭の中でアナザーワールドの構築を始めるのもいいかもしれません。
世界中の人々を魅力的な世界に誘うファンタジー作品の登場を楽しみにしています。
様々な作品に触れて、型に対する理解を深めよう
(以下、佐渡島さん)
今月は、「物語設定の定番の型を深く理解する」をテーマに、バディもの、タイムスリップもの、サスペンスもの、ファンタジーもの、それぞれの型のポイントを話してきました。
最初の週にも伝えましたが、物語の魅力を大きく左右するポイントは、登場するキャラクターやエピソードです。
物語を創作するという長い歴史の中で、「こういう設定にすると、人間の心は動きやすい」という定番の型は既に出来上がっています。
新人のうちはベタでもいいから定番の型を使い、キャラクターやエピソードを磨くことに時間をかけたほうがいいと僕は思います。
定番の型の上に、オリジナリティのあるキャラクターやエピソードを重ねていくことで、型破りと呼ばれる作品に仕上がっていくのだと思います。
是非、世の中にある素晴らしいマンガや映画にどんどん触れて、物語の型に対する理解を深めていってください。
聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide&コルクラボライターチーム
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