キャラクターが命。キャラが物語のすべて。
マンガを描くときはもちろん、映画でもドラマでも、必ず語られることです。佐渡島さんも常々、「物語の圧倒的な魅了は登場するキャラによるもの」と言っています。
では、どうすれば、魅力的なキャラを描くことができるのでしょうか。
キャラが立っているとは、その人物がどんな人かを瞬間的に記憶できることだと、佐渡島さんは言います。
そのためには、「主人公のリアクション」、「周囲のリアクション」、「ライバル」、「欠点」の4つの要素を総合的に考えてキャラづくりをしていく必要があるとも。
そこで、今月は、「魅力的なキャラクターをつくる」をテーマに、その欠かせない4つの要素について具体的に解説します。
この内容は実のところ、そのまま自己分析の方法論でもあります。どうすれば自身のtwitterで個を際立たせていけるのか。リアル社会も含めて、キャラづくりへの理解を深めていきます。
1週目となる今回は、「好きになるキャラとは何か」。そのために必要なひとつ目、「主人公のリアクション」についてお届けします。
好きになるキャラは「先の行動を予想できる人」
(以下、佐渡島さん)
キャラを立てようとすると、新人マンガ家は子どもっぽいマンガ的演出をしたり、おおげさに描いたり、突飛な行動を繰り返すなど“変な人”にしてしまいがち。このやり方は、基本的には間違っています。
物語を通じてそのキャラを好きになっていくわけですが、変な人は簡単に好きになれません。変な人の言動はなかなか理解できないからです。「気持ちがよくわかる人」だから、好きになれる。本当に描くべきは、「常識外れでエッジが効いているのだけれど、本質を突いている人」です。
そのうえで、その人のことを瞬間的に知って記憶できること。これこそが、キャラが立っているといえます。
物語というのは、裏切られると楽しい。
『物語設定の“型”を理解する』でも説明しましたが、読み手が裏切られるためには、「次はこういう風なストーリーになるだろう」との予想が頭の中で成り立っている必要があります。
サスペンスの場合はあらすじで裏切るのに対し、「この人なら次こうするだろう」と“人”によって予想できることがキャラが立っているということ。「キャラで(先を)予想させる」ことが超重要なんですね。
というのは、「予想する行為」と「応援する行為」のために起きていることが似ているから。
物語の序盤、読み手の予想の仕方は、(この主人公、このあと負けるんだろうな~)などと大雑把です。それが何度も予想が繰り返されることで、(負けるかもしれないけれど勝ってほしい)(圧倒的に勝ってほしい)などと予想のあり方が具体的になっていきます。
すると自然に、予想行為そのものが「応援している」形になる。キャラを応援するとは、物語を通じてその人を好きになっていることですよね。
AKB48グループのファンも、「予想→応援」の流れで拡大した例です。
そこで大きな役割を果たすのが、「総選挙」。
選挙において、投票する側や見ている側は自然と予想します。予想の内容を誰かに語る場合、「○○が当選すると思う。なぜなら……」と、その理由を自然と説明しますよね。
「この子が選抜メンバーになるよ。こういう魅力があるから!」「この子はこういうところがすごい!」と説明するうちにその子のことが好きになっていく。
選挙自体は完全な物語ではないのだけれど、選挙を見ている側は個々のストーリーを自由に作っています。選挙は、インタラクティブな物語を生む仕組みとして最強なんです。
そんな風に「その人物によって先の展開が予想できる」ためには、キャラを際立たせることが欠かせません。キャラが立つとは、その人物の輪郭が明確になること。その方法を知って意識的に描くだけで、物語はずっと面白くなります。
言動を受けての反応(リアクション)がキャラを立たせる
(佐渡島さん)
キャラを魅力的にするためのひとつ目は、「主人公のリアクション」です。
主人公がある行動をします。そして、その行動や周囲の出来事に対して、リアクション(反応)をする。このときのリアクションがどういうものかで、キャラがわかります。
たとえば、主人公が会議に5分遅刻してきたとします。
あるキャラは、遅刻行為に対して、顔面蒼白でこんな風に謝りました。
「本当に申し訳ない!皆さんの時間を1人5分ずつ無駄にしてしまった。僕はなんてことをしてしまったんだ…」
このリアクションから、このキャラは普段遅刻をしない人だとわかりますよね。
一方、別のキャラはこう言いました。「今日は早かったな。興味がある内容だったらそんなに遅れないんだな」。
このリアクションから、その人はしょっちゅう遅刻することが読み取れます。
行為に対して、その人物がどんな風にリアクションするか。そににその人の資質がものすごく表れます。
遅刻することは、世間の常識では「悪」とされていますよね。新人の多くは、ある出来事に対して常識的な反応をさせがち。一般常識のまま、「遅刻した状況を描く」→「謝る」という行動をさせても、キャラは一切表れてきません。
同様に「浮気」。浮気する=「悪」と単純に描いてもキャラは立ちません。
浮気しているときの罪悪感の抱き方、浮気相手の女性への連絡の取り方……。そこにキャラが出ます。
「そんな浮気の方法があるのか!」と驚いた話があります。
ある男性は、30人の女性と同時に付き合っています。その付き合い方は、30人の女性に対して、常に同じLINEの内容を送るというもの。会話はほとんど交わしません。相手の返信を読む時間なんてないから自分の伝えたいことだけを送信し、「へぇ~そうなんだ!」などと30人に似たような返信をする。
そんな関係性を続け、自分が寂しくなったら「今夜空いている?」と順々に声をかけていく。そして、その夜空いている女性と一緒に過ごします。この流れを延々と繰り返していると教えてくれました。
この戦法に、男性のキャラがめちゃくちゃ出ていますよね。
出来事に対して常識的反応をさせている限り、キャラは立たないのです。
どんな出来事でもキャラは出せます。誰でも経験する「朝食」においても。何を食べようかというとき、コンビニに買いに行こう! それもセブンイレブンがいい人と、自分でごはんを炊く人。違いますよね。
前日の夜から用意する人ならば、そのシーン単体だけでなく「この人物は、何においてもすごく準備して望むのかな」と何事かを予想させることもできます。
すべてのシーン、すべての登場人物にしっかりリアクションさせていく。それによって、魅力的なキャラに育つわけです。
今回の話をより深く学ぶには、『マンガでわかる 本気で売れるためのヒロユキ流マンガ術』がオススメです。「主人公のアクション&リアクション」を軸にキャラを立たせることを徹底して教えてくれています。
(翌週へ、続く)
聞き手・構成/平山ゆりの&コルクラボライターチーム
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