どうやったら、オリジナリティのある企画を考えられるようになれるのか…?
この問いに対して、佐渡島さんは、型破りなオリジナリティを生み出すためには、定番の型を深く理解することが大切だと言います。
「いきなりゼロから新しいものを生み出そうとしても大抵うまくいかない。そもそも“型破り”というのは、読んで字の如く、型を破ること。型を抑えていない人は、永遠に型は破れない」
今月の『企画のおすそ分け』では、「物語設定の定番の型を深く理解する」をテーマに、幾つかの型をピックアップし、それぞれの型への理解を深めていきます。
2週目となる今回は、定番の型のひとつである「タイムスリップもの」についてです。
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タイムスリップものと、スーパーパワーものは双子?
(以下、佐渡島さん)
今回、理解を深めたい定番の型は「タイムスリップもの」です。
主人公が過去の時代にタイムスリップする物語の型で、『JIN』、『ジパング』、『信長協奏曲』など、数多くの作品がこれまで誕生しています。
タイムスリップものは、主人公がスーパーパワー(超能力)を得る物語と、構造は基本同じです。
主人公が過去の時代に行くことで、周りがパワーを持っていない状態になり、持っている能力が際立つのがタイムスリップものです。『JIN』はその典型で、主人公だけが文明や知識を持っている。それにより、周囲から特別な存在だと見られます。
一方、スーパーパワーものは、周りの能力に変化はありませんが、主人公だけ何か特殊な能力を追加で得ることで、特別な存在となります。
ただ、タイムスリップの方が型の形が明確です。物語の前半にタイムスリップが発動し、主人公の存在により歴史を変えるかもしれない出来事が起こり、物語が帰結する。
また、スーパーパワーとなる能力の説明もいらないので、主人公が特別な存在であることが読者に理解されやすい。
タイムスリップものと、スーパーパワーものは、双子のような関係の物語の構造になっていますが、タイムスリップの方が型として使いやすいかもしれません。
物語の法則を働かせるために、重要なこと。
(佐渡島さん)
タイムスリップものをやる時に、絶対に意識しないといけないことがひとつあります。
それは、「物語の中で、大きな嘘はひとつだけ」ということです。
面白い物語とは、読者が先の展開の予測ができる物語です。
「主人公は、このままだと、こうなるんじゃないか?」と予測をしながら読んでいるから、その予測を超えたり、予測を良い意味で裏切られたりするときに、面白みを読者は感じます。予測ができない限り、物語は絶対に面白くなりません。
そうした時に、タイムスリップという非現実的な出来事が起こる世界だからといって、何でもありにしてしまうと、読者は先の展開が予測できなくなってしまいます。
タイムスリップという大きな嘘(フィクション)を使ったなら、それ以外は嘘をつかずに、徹底的に現実に即した方が良い。そうすることで、物語の法則が働きます。
例えば、『JIN』でも、主人公が幕末にタイムスリップ以外に、すごい特別な能力を追加で得ることはありません。あくまで現代医療の範疇で、患者と向き合います。
『ジパング』でも、面白さを際立たせているのが、艦隊の大砲の数などがシビアに設定されていることです。制約のなかで、どうやりくりをするかが物語に深みを与えています。これが、未来とどこかで繋がっていて、大砲が打ち放題だったり、未来から援軍が呼べるような設定が入ったら、全然面白くなくなってしまう。
これは、タイムスリップものだけでなく、スーパーパワーものでも同様です。
物語の法則を働かせるために、大きな嘘はひとつだけにする。これがとても重要です。
(翌週へ、続く)
聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム
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