常に時代をリードしていくヒット作品は、『辺境』から生まれるーー。
長年、編集者として様々な企画を考えるなかで、佐渡島さんが得たひとつの持論が、この考えです。
そこで、今月の『企画のおすそ分け』では、「ヒットは辺境から生まれる」をテーマに、4週連続で佐渡島さんに語っていただきます。
3週目となる今回のお題は「光の当て方を変えて、辺境を見出す」です。
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光の当て方次第で、辺境は見つかる
(以下、佐渡島さん)
先週は、そこにいる人たちの感情を、まだ誰も描いたことのない「物語としての辺境」を見つける重要性について話しました。
ただ、すでに色々な人が描いているテーマであっても、光の当て方次第で、新しい辺境を見出すことができます。
例えば、わかりやすい例が、サッカーチームの監督を主人公にした『GIANT KILLING』です。
これまでサッカー選手を主人公にしたサッカー漫画は、『キャプテン翼』をはじめ、世の中に沢山登場し、サッカー漫画という土地は、既に掘りつくされたかのように見えました。
しかし、それまで主人公として描かれていなかったクラブチームの監督というポジションに光を当てることで、『GIANT KILLING』はこれまでのサッカー漫画とは違う読み応えのある作品に仕上がりました。
選手たちはもちろん、クラブチームの経営陣やサポーターとの関係を描き、監督というポジションの難しさと醍醐味を、読者は味わうことができると思います。
他にも、野球マンガでいうと『グラゼニ』も同じです。野球を舞台にした漫画は沢山ありますが、野球選手としてもらえる年俸(お金)に着目し、プロ野球選手として食べていくことの大変さに光を当てることで、全く新しい漫画になりました。
このように、多くの人が足を踏み入れている土地であっても、光の当て方を変えることで、新しい辺境を見つけることができます。
マンガではありませんが、最近、僕が光の当て方として面白いと思ったのが『生きものの持ち方』という本です。
この本は、どういう風に昆虫を触れたり、持ってあげると、昆虫にとって幸せなのかという、昆虫目線で昆虫について語られている本です。昆虫に関する本は、図鑑をはじめ、山のように出版されていますが、この切り口は新しいと唸ってしまいました。
「土地を探す」と「土地を抑える」を組み合わせる
このように、辺境から企画を考える際には、ふたつの選択肢があります。
「新しい辺境の土地を探す」という選択肢と、「既にある土地の中で光の当て方を変え、辺境を見つける」という選択肢です。
長期の連載漫画の企画だと、このふたつが、重なりあうこともあります。
例えば、『ドラゴン桜』はまさに、このふたつが重なった企画です。
もともと、ドラゴン桜は、新しい辺境の土地を探した結果、生まれた企画です。
当時、先生を主人公にしたマンガやドラマは、『金八先生』のような、生徒と先生との人間関係を描くものしかなく、具体的にどういう学習法や勉強法がいいのかを教えてくれるものはありませんでした。
一方、出版市場においては、新書や実用書で、子供の勉強法や学習法といった本は数多く出版され、そのいくつかはベストセラーになっていました。
教育や勉強法についてはニーズはあるのに、マンガでは誰もそれを描いていない。
ここに、物語としての辺境があると思い、企画を立てたのがはじまりです。
そして、実際にドラゴン桜の企画を進めると、勉強法や学習法という土地はとてつもなく広大であることがわかりました。
「ドラゴン桜で、この土地は、ひとしきり開拓しましょう。そうすることで、勉強法や学習法に関する漫画といえば、ドラゴン桜というポジションを抑えちゃいましょう」
そう漫画家の三田先生と話をして、ドラゴン桜では様々な光の当て方をし、勉強法や学習法に関する辺境をどんどん開拓していきました。
最初は、高校生の大学受験に関する勉強法からはじまったドラゴン桜ですが、次第に、幼稚園児の教育法、小学高受験の勉強法、中学校受験の勉強法といった具合に、次々と様々な対象に光を当てていきました。
そうして、勉強法や学習法の土地は全てやり切ったと思い、ドラゴン桜の連載は終了したのですが、それから年月が過ぎ、新しく光を当てるべき辺境が現れました。
それが、「スマホやインターネットの登場に生まれた新たな勉強法」です。
この新しく登場した辺境に光を当てるべく始まったのが、現在連載中の『ドラゴン桜2』です。
このように、新しい土地を探したら終わりというわけでもなく、そこに様々な光をあてることで、その土地を抑えるという行為も大切になってきます。
「土地を探す」と「光の当て方を変える」。
企画を考える時に、両方の意識を持つことが重要です。このふたつを意識してみてください。
(翌週へ、続く)
聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide&コルクラボライターチーム
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