常に時代をリードしていくヒット作品は、『辺境』から生まれるーー。
長年、編集者として様々な企画を考えるなかで、佐渡島さんが得たひとつの持論が、この考えです。
そこで、今月の『企画のおすそ分け』では、「ヒットは辺境から生まれる」をテーマに、4週連続で佐渡島さんに語っていただきます。
4週目となる今回のお題は「忘れ去られた土地は、辺境となる」です。
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『君たちはどう生きるか』も、忘れ去られた土地から生まれた。
(以下、佐渡島さん)
先週までは、物語としての辺境を探すふたつの選択肢について話をしました。
「新しい辺境の土地を探す」という選択肢と、「既にある土地の中で光の当て方を変え、辺境を見つける」という選択肢です。
ただ、これ以外にも、辺境を探すやり方が存在します。それは、「忘れ去られた土地を探す」ということです。
以前は、多くの人がそのテーマについて描いていたが、時代が変わり、誰もそれについて描くなくなった土地を探すということです。
例えば、漫画『君たちはどう生きるか』は大ヒットしました。実は、これも忘れ去られた土地を探すという企画の立て方です。
『君たちはどう生きるか』は、子供にちょっと特別な世界を見せてくれる魅力的な「おじさんもの」という、忘れ去られていた土地に光を当てています。
1958年のフランス映画で、アカデミー賞も受賞した『ぼくの伯父さん』という作品をはじめ、以前は近所に住むおじさんや親戚のおじさんが、小さい子供に不思議な話を聞かせてくれたり、特別な世界を教えてくれる「おじさんもの」という土地が人気を得ていた時代があります。
ですが、ここ近年は「おじさんもの」は影を潜め、この土地が辺境として蘇ったのです。
「おじさんもの」のように、過去に一世風靡をした土地というのは、人を惹きつける魅力を備えている可能性が非常に高いです。
なので、「地方創生」ではないですが、その忘れ去られた土地を現在風にアプローチすることで、新しい魅力を引き出すことができます。
過去の名作をリメイクするという辺境の探し方
「忘れ去れた土地を探す」という意味では、過去の名作のリメイクも非常に価値のある企画のアプローチです。
例えば、夏目漱石や森鴎外の作品は、長く続いた江戸から近代にかけて、価値観が急激に大きく転換される時に、前時代と新時代の狭間で揺れ動いている人たちの心情を描いたものが沢山あります。
これは、インターネットやテクノロジーの急速な発展により、これまでの価値観から大きく変化しようとしている現在においても共通する部分があり、漱石たちの作品を現在の時代に合わせてリメイクすると、とても価値のある作品が生まれそうな期待を感じています。
他にも、昔の古典作品にフォーカスするというのも、企画の立て方としては有効です。
例えば、『キングダム』が流行っていますが、中国の古典は、『三国志』や『西遊記』など、これまでに何度もリメイクをされるほど、人気があります。
そして、中国の歴史は長いので、おそらく僕らの知らない素晴らしい中国の古典が、まだまだ沢山眠っているはずだと思っています。
日本の古典にも、時代を超えて読み継がれてきたものが沢山あります。きっと、その中にも、現在の多くの人が価値に気づいていないものが多く存在しているはずです。
そもそも古典とは、時代が変わっても共感できたり、価値を感じる普遍性があるからこそ、生き残ってきているものです。
忘れ去られつつある作品を見つけ出して、そこに光を当てるということにも、挑戦してもらえたらと思います。
あなたが描きたい辺境を見つけて欲しい。
ということで、今月は「ヒットは辺境から生まれる」をテーマに話をしてきました。
これまで多くの名作と呼ばれる作品は、辺境にいる人々の心情を物語として社会に届け、社会全体の価値観を揺り動かしてきました。
時代を象徴するようなヒット作品を創りたいのであれば、辺境を探すことを常に意識して、様々な物事を見ていくといいでしょう。
最後に、繰り返しになりますが、物語の企画を考える時の、辺境の探し方は3つです。
誰もそこにいる人たちの感情を描いたことのない、「新しい土地」を探す。
既に掘り尽くされている土地の中で「光の当て方」を変え、新しい辺境を見出す。
時代とともに「忘れ去られた土地」を見つけ、現代風にアレンジする。
この3つの視点を忘れずに、自分が描きたい辺境を見つけてみてください。
聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide&コルクラボライターチーム
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