リアリティが乏しいと、作品へのツッコミどころが多くなってしまい、物語の世界に没入することを妨げてしまいます。
フィクションの創作に携わる人であれば、リアリティをどう作品に生み出すかは永遠のテーマなのではないでしょうか?
そこで、今月の『企画のおすそ分け』では、「リアリティに生み出す」をテーマに話をしていきます。
2週目となる今回は、「リアリティのある人物の描き方」です。
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上手い似顔絵とは、顔が似ていることではない。
(以下、佐渡島さん)
マンガにとって一番重要なのは、主人公をはじめとした登場人物です。
「この人(たち)のことをもっと知りたい」と、読者が感じない限り、物語を先に読み進めません。
そのため、登場人物こそ、もっともリアリティが求められます。
先週、マンガ表現とは、3次元のものを見ながら、2次元の絵に落とし込むことだという話をしましたが、キャラクターが現実に生きている姿を想像しながら、絵に落とし込む技術がマンガ家には求められます。
そして、3次元を2次元に圧縮する際に、マンガ家のものを見る眼が問われるのです。
例えば、人の似顔絵を描く時に、写真のような精密な似顔絵を描く人がいます。これだと3次元のものを、ほぼ3次元のまま保っているだけなので、マンガになっていないんです。
一方、すごく線が少なくなって、極端にシンプルになり、記号のような絵になっているんだけど、完全にモデルの人物を捉えているという似顔絵もあります。これが3次元のものを2次元に圧縮しているということです。
つまり、似顔絵で何をもってリアルかというと、決して顔が似ているということではないんです。
では、何があるとリアルと思うのかは、僕もまだ詳しく言語化はできていません。ただ、絵の人物を見た時に、その表情にその人物の本質が見える時に、僕はリアリティを感じるように思います。
人間は様々な表情を持っています。その表情の総合体がひとりの人間です。その人がどんな感情を主に生きているのか。物憂げなのか、楽しげなのか、ちょっとイラっとしがちなのか。その人の主となる感情と顔の特徴がセットになっている似顔絵が、いい似顔絵だと思うんです。
そういう意味では、漫画『君たちはどう生きるか』の羽賀翔一さんは似顔絵を描くのが、とても上手いです。
羽賀さんが描いたダルビッシュ選手の似顔絵をみてください。すごく少ない線の絵なのに、ダルビッシュ選手の気持ちの強さが上手く表現されていると思います。
このように、線を減らすことが出来ていて、人物の感情を読み取って絵に落とす。このふたつの要素を兼ね揃えることが、リアリティのある人物を描くうえで大切なのかもしれません。
リアリティを生み出すために、もしかしたら他の要素もあるかもしれませんが、少なくともこの2つが必要なのは間違いないと思います。
ものを見る眼をどうやって鍛えるか?
似顔絵を例に話をしてきましたが、これはマンガのキャラクターを描く時も同様です。
例えば、『宇宙兄弟』に久城光利というキャラクターがいます。そして、久城のモデルは、ミュージシャン『くるり』の岸田繁さんです。
(C) 小山宙哉/講談社
この久城がメガネを拭きながら話している絵を見た時に、僕は改めて「小山さんって、すごい!」と思いました。
もし僕を久城のモデルにしていたら、メガネを拭く時は、服でメガネを拭いていると思います。また、メガネを拭きながら平気で人と会話をしているはずです。
でも、久城は布をポケットから出してメガネを拭いている。しかも、メガネを拭くのは人と会話をしていない時です。会話を止めてメガネを拭いている。
小山さんは岸田さんの事をよく見ていると思いました。この細かい動作から、久城というキャラクターのことを、小山さんがどれだけ深く理解しているのかが汲み取れます。
これは簡単そうに見て、すごく難しいです。3次元の生きているキャラクターの姿を想像しながら描かないと、こういう表現はできません。実は宇宙兄弟にはそういうシーンが沢山あります。さりげない仕草や体の向きに、そのキャラクターの性格や個性が上手く表現されています。
そして、こういうマンガ家こそ、リアリティのある面白いマンガが描けると僕は思います。
顔の作り、表情、顔の向き、姿勢、身振り手振り、細かい仕草。様々な要素から、何を切り取って、そのキャラクターを2次元で表現するのか?この3次元から2次元に落とし込む技術が一流のマンガ家には備わっています。
そのため、僕は新人漫画家には、日常で出会った印象的な人のスケッチをすることを勧めています(Twitterで「#スケッチブックス」で検索すると、みんなが描いたスケッチがでてきます)。
3次元を2次元に圧縮する際に、マンガ家のものを見る眼が問われると言いましたが、普段の生活から、ものを見る眼を鍛えてみてください。
(翌週へ、続く)
聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム
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