今回1番響いた作品は、ほしいもさんの作品『ビスケットの缶』(https://comici.jp/articles/o/72082/)でした。
すごく可愛いですよね、絵。
男「じゃあ…元気で…」
女(だまって頷く)
ここの描写、心をギュッ!っとされました。
頷くときの女性の口元がもう最高に切なくて、でも多分あんな感じなんですよね。最後って。そして、ドアを閉めたあと、その表情のまま起きる変化が、もう。切なさを超えて心苦しさすらおぼえるような。あんな顔されたらもうみんな抱きしめたくなりますよ。
話の運び方も上手で、着地のおしゃれさも素敵でした。
今回も迷いに迷いました。まず、多くの楽しい作品を読むことができてすごく充実した時間を過ごすことができました。漫画家のみなさんありがとうございました!
課題作品を読んでいて、話の運び方や推しへの愛情、さまざまな点で面白いなあと思う作品がたくさんありました。
そのようななかで、今回この作品を選ばせていただいた理由のひとつとして、「絵の可愛さが切なさを助長させる」ことに気付かせてもらえたというのがあります。
これまでにも恐らく感じてはいたんでしょうが、課題という意識のフィルターによって気付けたというか、初めてこの感情を可視化することができました。
あのですね、もうずっと可愛いんですよ、絵が。タッチ、色使い、作中の女性の一挙手一投足が。ビスケットを1枚掴むときの「そっ…」なんて、僕には絶っっ対に思い付かない。そして苦手な味を食べたときの表情。あの表情だけで、キャラクターの性格がみえる。1コマ目から最後まで、一貫して可愛い。可愛さを初志貫徹している。
でも、ずっっと可愛いからこそ、あの物語のなかにある切なさが際立つというか、可愛いと切ないが溶け合っていて、ベースにずっと可愛いというポジティブな感情を抱きながら読み進めているから、切ないというネガティブ(?)な感情に切り替わるときの振り幅が増大していて、「ただ可愛い」「ただ切ない」よりも、ずっと大きく心を揺さぶられる気がしました。
絵が可愛いってすごくチープな言葉で、作者のほしいもさんにはなんだか申し訳ないのです。でも、作品をとおして絵が可愛いと感じるのは、すごく深く創られた作品だからだと思います。
技巧を超えたセンスというか、絵の可愛さって絵だけでは出なくて、線や色合い、描き込み具合、台詞の量からオノマトペに至るまで、一貫した作風だからこそ、各要素が掛け合わさって「可愛い」が生まれていると感じました。
体育座りでタオルケットを肩にかけ、甘苦いあつあつのホットココアを飲んでいるパジャマ姿のめちゃくちゃ可愛い女の子的な。これって狙ってやるとすごくあざといけど、自然とやっていてしかもそれがサマになっていたらもう最強じゃないですか。
そうなんです。ほしいもさんの『ビスケットの缶』は、自然とやっていてそれがサマになっている最強の側の作品なんです。
これは、ものすごい武器だと思います。ほしいもさんには今後もこの武器をブンブン振り回しながら作品を創ってほしいです。
『ビスケットの缶』、皆さんもぜひ読んでみてください。ほしいもさん、素敵な作品をありがとうございました。
キラキラした宝石みたいに特別なあのビスケット、美味しいですよね。僕もめちゃくちゃ好きでした。