どうしたら、一流の漫画家として活躍し続けるための型を身につけ、自由自在に使いこなし、果てには型を破ることができるのか…?
それには、何にも増して “暗記” が大切だと佐渡島さんは言います。
今月の『企画のおすそ分け』では、クリエイティビティを高めるための暗記方法と、漫画家として暗記すべきことついて、4週連続で佐渡島さんに語っていただきます。
最終週の今回は、改めて「暗記の価値」について語ってもらいました。
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知識があればあるだけ、自分の可能性を広げることができる
(以下、佐渡島さん)
最終週の今回は、クリエイティビティに絶対に必要なものとして、”暗記”の重要性を改めて伝えたいと思います。
漫画家が暗記すべきことは、先週・先々週に紹介した「物語のあらすじ」、「キャラクターの性格」、「感情表現」以外にも、絵を描くときの構図や色使いなど、他にもたくさん存在します。
数あるクリエイティビティが求められる職種のなかでも、特に漫画家とは暗記すべきことが多岐にわたって求められる仕事なのだと思います。
例えば、映画であれば、あらすじを考えるのは脚本家、俳優ごとの感情表現を考えるのは演出家、最適な構図を考えるのは撮影監督といったように、様々な領域のプロフェッショナルが集結してひとつの作品を仕上げます。
それに対し、漫画は、ひとりの漫画家が総監督として、仕上げないといけません。
漫画とはひとつの世界を創りだすものです。その世界の秩序をつくるのも、そこで暮らし人たちに命を吹き込むも、全て漫画家ひとりの肩にかかっています。ここに漫画家の難しさもあり、面白さもあります。
ですが、千里の道も一歩からと言うように、一歩ずつインプットを積み重ねて、自分の頭のなかの引き出しを増やし、型を磨いていってほしいと思います。
「センスとは知識の集積である」
これはグッドデザインカンパニーの代表の水野学さんの言葉ですが、あらゆる仕事に置いて“知らない”とは、圧倒的に不利になります。
センスがいい文章を書くには、言葉をたくさん知っていた方がどう見ても有利です。言葉の知識が非常に豊富な人ほど、素晴らしい表現を多く生み出せるでしょう。
これは漫画家もそうですし、どんな仕事においても同様だと思います。知識があればあるだけ、自分の可能性を広げることができるのです。
常に暗記を意識しながら、日々を過ごそう
漫画家として長く活躍することを考えると、自分が覚えたものを分解し、共通の要素を考え、一定のルールを見つけ出すことが重要となります。
例えば、『ドラゴン桜』や『インベスターZ』の三田紀房さんは、様々なテーマの漫画を描いていますが、どれも面白い作品に仕上げています。
それは、三田さんの中に、読者を感動させるための「漫画の方程式」があるからです。一流シェフが「こういう順番で料理をだしたほうが、コース料理としてお客様を楽しませることができるだろう」と考えるのと同じような感覚かもしれません。
そして、編集者というのは、この漫画の方程式を漫画家が自分で見つけるのを手助けする役割なのではないかと、僕は考えています。
この連載『企画のおすそ分け』や、コルクラボ漫画専科を行なっているのは、漫画家にとって暗記すべきことを体系化し、漫画家になることのハードルを少しでも下げて、漫画家を仕事にできる人を増やしていきたいと思っているからです。
資格試験や語学であれば、予備校のようなスクールがあり、学ぶべきことがが体系化されていて、それをきちんと習得していけば、どんな素人でもある程度のレベルにまで簡単に到達することができます。
最近では、寿司職人に必要なことも体系化されていって、昔はいっぱしの職人になるのは大変だと言われていましたが、現在は半年程度の修行で美味しい寿司を握れるようになりました。
資格の勉強も、語学の勉強も、どんなものでも最初は暗記から始まります。語学であれば、文法を覚えて、記憶している単語量を増やす。センスや才能だけで、外国語を喋れるようになる人はいないはずです。
そのため、プロの漫画家を目指す人は、常に暗記を意識しながら、日々を過ごして欲しいと思います。
例えば、面白い作品と出会ったら、あらすじはもちろん、参考になりそうなシーンや表現は積極的にメモをする習慣をもつ。漫画だけでなく、映画、アニメ、ドラマにおいても同様です。
そんな風に、暗記する意識で日々を過ごすのと、その意識がない状態で過ごすのとでは、漫画家としてのアウトプットが全く違ってくるはずです。
暗記自体はクリエイティブな作業ではないかもしれません。しかし、クリエイティビティを一番速く手にいれる手段は、やはり暗記なのです。
聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム
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