

漫画を描く際のポイントはいくつもあります。また、そのポイントを知っていれば鑑賞するのももっとずっと楽しくなる。
本コーナーでは、そんな漫画のポイントをお届けします。
一度見たら忘れられない『ドラゴン桜』のインパクトのある比喩。多くの作家の作品を見てきた佐渡島庸平さんは、この比喩こそが漫画における重要ポイントだと語ります。
今回は、『ドラゴン桜』から漫画を描くコツをお届けします。
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【概要】
『ドラゴン桜』は、元暴走族の弁護士・桜木建二が龍山高等学校の経営を請負い、落ちこぼれていた生徒を東大に合格させるべく受験テクニックや勉強法を教える三田紀房さんの漫画。読んだ人に強烈なインパクトを残すのが、桜木がレクチャーの際に度々用いる比喩表現だ。
■受験はテクニックで突破する
■数学の瞬発力を鍛える
◆ベタな比喩を恐れない
(以下、佐渡島さん)
漫画の目的は、読者にメッセージをきちんと伝えることです。漫画は流れで読むものですから、情報がとどまりにくいという特徴がある。
それを踏まえた上で、メッセージが伝わりやすいように1コマ1コマを描かないといけないんです。
しかし、新人漫画家は漫画のワンシーンに絵画のようなカッコイイ絵を描きたがります。
絵単品で見れば、素晴らしいのでしょうが、漫画ではそうした絵は流れてしまいがち。読者にメッセージを伝えるという役割を果たすことができません。
「絵のうまさを褒めてほしい」とか「細かい点まで描き込んでいるのを見てほしい」など、漫画家としての思いは色々あるでしょう。
しかしこれは、シェフが「こんな料理を作ったなんてスゴイ!」と言われたがるのに似ている現象です。
本来であれば、料理を食べて「おいしい」と思ってもらうのがシェフの仕事の目的のはず。自分が目立ちたくなってしまうと、本当の意味で食べてもらう人のことを考えた料理にはなりません。
漫画も同様。作り手が主役になろうとすると、作品の中で伝えるべき内容がうまく伝わらなくなってしまいます。
では、なにが必要なのか。
それは、自分の「かっこいい」という尺度は横においておいて、ベタな表現を怖がらずに用いることです。
『ドラゴン桜』の比喩は漫画の流れの中で見ていても、意識が止まり、印象に残っていますよね。
これは、読者に印象を残すためにあえてやりすぎなくらいのベタな表現を使っているからです。この“やりすぎ感”こそが、漫画の中では必要なのです。
◆人づてでラブレターを伝えるようなもの
「伝えているつもり」という発言をよく聞きますが、発信者は常に「情報は意図通りに伝わらないものだ」という大前提を踏まえておかなければいけません。どんな時でも、発信側に責任があるのです。
それは、漫画というコミュニケーションの場でもそうです。
前回は、『クロカン』の150km/hの球を取れないキャッチャーの話をしました。漫画で150km/hの球を描こうと思ったとき、現実的な表現をしてもその速度は伝わりません。
200km/hの球を描くような気概で、ボールが燃えているくらいの表現をして、やっと読者に「150km/hの速いボール」という印象を残すことができるのです。
「正しく描いているから伝わっているはず」という認識では甘い。本当に重要な情報は、「これでもか!」と誇張しなければいけません。
漫画だけでなく、あらゆる媒体や人を介した場合、伝えたいメッセージは伝わりにくくなると理解しておかなければいけません。
例えば、好きな人へ恋心を第三者に伝えるようにお願いしたとします。どんなところが好きかなど細かな点を挙げ、自分がいかに好きかを解説して……果たして、これで思いは伝わるでしょうか?
おそらく、伝わり切らないのではないかと思います。相手には、「ふーん。ありがとう」とでも言われて終わりかもしれません。
でももし伝達する人が、「もうキミのことが好きすぎて、アイツ、泣きながら川に飛び込んでいたよ」と言われたらどうでしょう。
「え? 泣いていたの? 川? わけがわからないけれど、そうとう好かれているんだね、私」と、情熱は伝わるでしょう。(告白がうまくいくかどうかは別として。)
残念ながら事実や論理を重ねても、人に情熱は伝わらない。だから、本当に伝えたいことには直接的すぎる表現が必要なのです。
◆フィードバックを得て適切な“盛り”を知る
興ざめせずに適度な“盛り”を漫画に施すにはどうしたらいいと思いますか?
それは何度も何度もフィードバックを重ねることです。自分が「つもり」になっていることは、周囲にはほとんど伝わりません。
「色気のあるかっこうをしよう」と思って努力をしたところで、ほとんどの場合は気づかれない。他人から「あれ? 変わった?」と言われるのは、自分では「やりすぎかな」と感じるくらい盛ってからです。
だから、いいあんばいを探るためには、自分の中だけで悶々としているべきではないんです。
漫画であったら、自分の描いたものを何度も人に見せる。
そうして、大事にしている思いがきちんと伝わっているかを確認しましょう。フィードバックをもらい、改善するというサイクルを繰り返し回すことで、適切な盛り方を知ることができるはずです。
【ポイント】
・ベタな比喩を恐れず用いる
・大事な部分は事実や論理的な表現ではなく、これでもかと誇張して伝える
・フィードバックを得ながら盛り方を体得する
聞き手・構成/佐藤智@sato1119tomo & コルクラボライターチーム

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