「企画力を高めていくためにはどうしたらいいか?」
この問いに対し、編集者として多くの企画を生み出してきた佐渡島さんが導き出した一つの答えが、「自分の偏見メガネを把握すること」だ。
今月の『企画のおすそ分け』では、4回にわたり、この偏見メガネについて掘り下げていく。偏見メガネの1枚目のレンズは自分の体調と感情。2枚目は所属コミュニティの常識、そして3枚目が自身の信念だ。
シリーズ2回目は、「感情と体調」の偏見メガネについてお伝えする。よい企画を練るには自分の心に目を向けることが必要だ。しかしそれは簡単なことではない。そこで今回は、体調を観察することから感情を捉えるアプローチをご紹介する。
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偏見メガネ「感情と体調」に目を向ける
(以下、佐渡島さん)
楽しい感情の偏見メガネをかけている時と、悲しい感情の偏見メガネをかけている時とでは、同じ企画であってもまったく違うように見えます。だから、僕は今まで、多くの編集者やクリエイターに自分の心を正確に捉えた上で企画に向き合うことが、よい結果につながると伝えてきました。
しかし、前回お伝えしたように、自分にとって自分は刺激がないもの。そのため、自身の心に意識を向けるのは簡単なことではないのです。さらにいうと、感情を正確に把握できているか否かという指標もありませんよね。
そこで僕が考えついたのは、自分の体の変化から感情を探るという方法です。当然のことですが、人間の心と体はつながっています。であれば、呼吸、心音、体温、筋肉の収縮などあらゆる観点から、心を推し量ることができるはず。体調から感情の偏見メガネを見つけていく、今回はそんな発想をご紹介します。
自分の呼吸に意識を向ける難しさ
先日、僕は京都の龍安寺に座禅を組みにいきました。初めての体験で勝手がわからない状態。最初に言われたのは、「呼吸に注意を向けなさい」ということでした。
60分間、ただただ自分の呼吸に集中する。みなさん、こんな経験ありますか?
自分の呼吸に意識を向けようとしても、慣れない僕には1分程度が限界。数分も経つと、眠くなってきたり、「あれをしよう」「これをしなきゃ」と違うことを考え始めたりしてしまう。
正直に言って、自分の呼吸に意識を向けることがこんなに難しいとは思いませんでした。ヨガ教室などではよく、「呼吸が大事」と耳にしますよね。だから、ある程度集中すれば誰でもできるものだと、たかをくくっていたんです。
でも、予想をはるかに超えて難しかった。
自分の呼吸について考え続けるには、呼吸に対するチェックポイントを無数に増やしていかなければいけません。自分の体に潜り込み、どのような呼吸なのか、早いのか遅いのか、深いのか浅いのか……じっくり観察する必要があります。
呼吸把握のステップをクリアすると、次は自分の鼓動を聞けるようになるそうです。心音は、「ドキドキしているな」と緊張している時くらいにしか認識しませんよね。しかし、慣れると、平常時でも心音に意識を向けられるようになる。
僕は、それができるようになれば自分の感情をも把握できるのではないかと考えたのです。
体の変化を観察し感情の仮説検証を繰り返す
一流のスポーツ選手は、「どこの筋肉がどう動いているか」をつぶさに把握しているといいます。僕たちも、これくらい体に意識を向けることができれば、体調から心を探ることができるはずです。
僕は最近、「今日の打ち合わせは緊張したな」という時に、Fitbitをチェックするようにしています。心拍数を確認して、低ければ「そんなに緊張していなかったかも」となるし、高ければ「やっぱりね」と思う。感情の答え合わせをするわけです。
テクノロジーの力を借りて、体の変化を観察し、自分の感情の仮説検証をしているんです。坐禅や瞑想を続けていれば、自分の力で心音を捉えることができるようになるそうですが、それまではFitbitのサポートで捉えていきたいと考えています。
体調を正確に捉えることができれば、自分の感情も把握できるようになるはず。そうすれば、偏見メガネの自身の「感情」を認識し、取り外しも可能になっていきます。感情のメガネを外したフラットな状態で企画を生み出せたり、評価したりすることができるようになっていくのです。
聞き手・構成/佐藤智 @sato1119tomo&コルクラボライターチーム
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