テーマ 終末期
看護師だった私が初めて部屋の担当で看取りをした話。
その方は長年癌で闘病され入退院を繰り返し、私が新人で部屋の担当をしたときには既に余命わずかの時期だった。意識は朦朧としていたが強い倦怠感と痰が絡む事での呼吸苦で自ら痰の吸引希望を伝えてきた。その日も痰を吸引してほしいとナースコールがあり、付き添っていた娘さんに処置の間、少し部屋の外で待って欲しいと伝え、部屋を出てもらった。処置の時は家族に席を外してもらうようにと指導されていたので、毎回そのようにしていたのだ。その患者さんの最期がそのあと間もなく訪れた。先輩看護師にその患者さんの様子を看てもらうよう頼んで、他の患者さんの処置(ストマケアの為少し長く時間がかかる)に入っていた間に患者さんは亡くなった。部屋の担当だったにもかかわらず立ち会うことができなかった。
そんな短期間に息を引き取るなんて、午前中はナースコールもくれていたのに。呆然としながら先輩看護師を中心にエンゼルケアを行った。
今まで殆ど会話らしい会話をしていなかった娘さんが泣きながら、「本当は処置(吸引)の時にも側に付き添っていたかった。苦しい処置だからこそ手を握って励ましたかった」と私に話してくれた。入職3ヶ月程だった私は、まだ処置を行う事に必死で、状態観察に必死で患者さんともそのご家族ともしっかりコミュニケーション取ることができていなかった。その自覚もあった。
私の未熟さが遺された家族に後悔を残すことになってしまい、本当に申し訳なく、悔しくて悲しくて仕方がなかった。
日勤帯が終わり、初めての看取りということもあり先輩看護師と振り返りをし、娘さんの言葉、自分の未熟さ、話を聞き対応できなかった事への後悔を話しながらぽろぽろと涙がこぼれた。仕事中に泣いたのは後にも先にもこの時だけ。
3ヶ月の新人看護師の私は、コミュニケーションを取ることを怖がっていたと思う。話を聞いてもどうしていいかわからない事も多く、できない事を引き出すのが怖かった。
それがこんなにも家族の心に後悔を残す結果になるだなんて思いもしなかったのだ。
教わったルールを守っていればいいと思ってた。
ルールに気を取られ過ぎて、大切な事を見逃してしまった。
もうこんなことがないようにしたいと強く思った。
何よりも患者さんとその家族とのコミュニケーションを大切にしようと心に誓った。
その後の看護師としての姿勢に強く影響を与えた看取りだった。