なかよし×コミチショート漫画大賞(第15回コミチ漫画賞)の総評を書かせていただきます、コミチ代表のマンディ(@daisakku)です。
今回のコミチ漫画賞は、日本で最も歴史のある少女漫画誌『なかよし』さんとの共同開催という形でやらせていただきました。
ページ数以外にはほとんど規定を設けなかった結果、いつにも増してバラエティ豊かな作品が集まりました。本当にありがとうございます!!
今回も本当に激戦で悩みましたが、大賞3作品・入賞3作品の合計6作品を選ばせていただきました。
詳細は、しーげるさん、シャープさん、たらればさんによる寸評をお楽しみください!
大賞
エッグベネディクト 都会
シャープさん(@SHARP_JP)
大好きです。大好きすぎてコラムも書いたくらいです。
子どもならではの世界の狭さとそれに反比例する空想の広さ。平和なお話なのだけど、よくよく読めば子どもなりの切実さが編み込まれていて、決してのほほんと生きているわけではないことがわかる。きっと引きこもる彼女にも彼女なりの理由があって、彼女を家から出そうと試みる男子にもそうする理由がある。子どもに愛される、子どもの日常が描かれた名作には、大人から見えない切実さを受け止めるようなやさしさがあると思うのですが、都会さんの作品はそれに通じるものがある。なかよしの読者がこの作品に出会うのが楽しみです。
たらればさん(@tarareba722)
絵もテーマもテンポも、さくらももこ先生を思わせる作品で、すごい勢いで読み終えました。何度も読みたい。ぜひこのテーマで描き続けてほしいです。この作品、何がいいかって、絶妙な言葉の使い方だと思います。全体的な(コマの構成を中心とした)雰囲気やキャラクターのとぼけているのに柔らかい感じもすばらしいのですが、「エッグベネディクト」という料理のセレクトなど、いやあ、絶妙です。ギリギリ名前だけ聞いたことがある、なんとなく高級っぽい、絵に描くとよっぽど上手くないと美味しそうに見えない、というポイントを見事に抑えていてパーフェクト! と感激しました。たぶん30年前だったらビーフストロガノフだった気が。男の子のほうがすこしクールなのも、物語を感じさせて好きです。
しーげるさん(@henshu_shigel)
絵もキャラもすっとぼけた脱力感が魅力的。「エッグベネディクト」という食べ物一つへの想像だけでしっかり話を作れている構成力もいいですね。学校に行かない(行けない)理由には全く触れていないのだけれども、「エッグベネディクト」という精一杯の餌を用意してみた男の子と、娘のささやかな喜びのためさりげなくスーパーへ向かったお母さん、それぞれの相手に負荷をかけない優しさがとても素敵です。他のエピソードも読んでみたい。
四十五番街花屋のマリー いくたはな
シャープさん
強い自分に憧れるのは男子の専売特許ではない。もうとっくに女子も強い私に憧れる時代だから、腕利きの殺し屋であるマリーさんが花屋に恋するお話も、なかよしの王道と言えるのではないかと思うのです。血と薔薇と武器とハートだけが赤に彩色されているのがかっこいい。
たらればさん
キャラクターの表情がよくて、「あー、キャラの顔から好きになると、読者はその人物の背景を勝手に想像するようになるんだなー」という気づきのある作品でした。お花屋さんの店長さん、元凄腕の殺し屋だったり、実は公安警察官だったりしてほしい。ちなみに花は一輪で買うケースと花束で買うケースで、選ぶ種類がくっきり分かれていて、「毎日一輪」だとそんなに種類がなくて続かないので、「1000円ぶん」とかにしたほうがいいのではないかなと勝手に思いました。お花、いいですよね。「お花屋さんで花を買って部屋に生ける」というのは、「時間の経過を意識するようになる装置(時計とは違う種類の時間装置)を見える場所に置く」ということなんだと、買うようになって気づきました。
しーげるさん
キャラクターへの愛と萌えが詰まった作品。デレてる時とキレてる時の表情の落差が素晴らしく、ギャップのある強い女子って魅力的だなあと感じさせられます。殺し屋と花屋というギャップもいい。花屋のビリーのキャラクターも、もう少し表面と違う魅力や人間性が垣間見えると、この先の想像が膨らんでなお良かったと思います。
もふもふ男子 アル川パカ之助くん izuu
シャープさん
多感な時期の少女が気にかけるのはいつだって恋の話だし、恋に落ちるのはたいてい意中の人のまつげの長さに気づいた時だろう。座高が大部分を占めるとはいえ、高身長なアル川くんはおまけにふわふわしてやさしいとくれば、少女は恋に落ちないわけがないのだ。ただアルパカなので、もし連載があれば、ぜったいに唾をぺッと吐く回があると思う。
たらればさん
「大賞」3作品のなかで一番論評が難しい作品でした。な…なぜこれを大賞に選んだんですか『なかよし』編集部……。いや「ふさわしくないのでは」と言いたいのではなく、どう評価すればいいのか、とても難しい作品でした。だって、「転校してきた男子生徒が3/4くらいアルパカだった」という話ですよね…。たしかに「続きを読まなければ評価できない」というのは連載漫画の王道なのかも…とも思いました。ぜひ続きが読みたいです。贅沢をいえば5話くらいでリャマも出てきてほしい。
しーげるさん
どうコメントしていいのか分からなくて何度も読み返しているうちに、アル川くんの造形がじわじわツボるように。#04の2コマ目の焦点が顔ではなく首らしきものにあたってるのだけど、そう、そこが気になるんだ。触りたい。触ってくれ主人公!
入賞
冬季限定!こたつ猫カフェ 水島みき
シャープさん
これを読んだ猫カフェの人たちはもれなく、この冬はこたつを設置するのではないか。疲れた人が猫に誘われて入る店はなかなか素敵なシチュエーションだし、連載になるとよさが加速しそうに思います。
たらればさん
こんなカフェ、近所にほしい! そしてぜひ本作はシリーズ化していただきたい! 『BARレモン・ハート』(古谷三敏著)とか『深夜食堂』(安倍夜郎著)のように、人間模様が浮き出すような作品になる予感がしております。あとこれたぶん、今回のコンテストが冬開催だったらもっと評価が高かった気が。
しーげるさん
とてもいい! これは間違いなく一つの理想の場所だと思う! キャラクターやメニューやシチュエーションをうまいことブラッシュアップできたら、なかなか素敵な連載になると思うので頑張ってください!
わしの所に来たイケニエがなんだかおかしい 砂原 可奈
シャープさん
ありがちな童話を読む気分で読み始めたら、2ページ目からまさかの展開で驚きました。主人公の彼女がなぜそういう人間になったのかを、詳しく知りたい。
たらればさん
絵柄もキャラクターもキュートです。すごく可能性のある世界観なので、設定をもうすこし掘り下げるとさらに面白くなりそう。たとえば「森の主」はこれまでも生贄を食べてきたのか? なぜ森の主になったのか? 生贄はどのように選出されるのか? 生贄はなぜ寝ているときに涙を流したのか? 生贄はなぜ「自分は森の主に食べられるべき」と考えているのに服は絶対に脱ぎたくないのか?(「好き嫌いはよくない」という理由以上のもの)などなどを(作品内で直接描くかどうかは別として)考えておくと、作品世界に深さが出ると思いました!
しーげるさん
生贄も主様もどっちもとても可愛い。キス待ち顔と勘違いの所の表情もすごくキュンとする。読んでてほっこりさせられましたが、他のキャラが絡んできた時にどんな感じになるのかも見てみたかった。
I don’t like youの意味 眠井アヒル
シャープさん
だれもが身に覚えのある、ネイティブな発音をする人に抱く嫌悪感から、見事に人間の本質を突く展開にハッとさせられました。大人ならほんとうは薄々気づいている、他者に抱く嫌悪感は自分へのブーメランという事実が、2者の対話からあぶり出されるのが、若者の成熟をあらわすようで素晴らしいと思いました。
たらればさん
わーー、これはすばらしい着眼点! ネイティブ発音者に感じる複雑な心境、それを反映してわざとクセの強い読み方をしてしまうこと、誰かが嫌いなのではなくその人を嫌う自分が嫌いであること、そしてそして「気持ちを言葉にする」ということへの本質的な不可能性(それを「翻訳」という作業で感じること)が、この短い作品に詰まっていました。たぶん主人公は、このさき何度も「いまの自分の気持ちを表す言葉がわかった!」と閃き、そして言葉にした瞬間「なんか違う気がする…」と感じることでしょう。そうした出力と入力を繰り返して、じんわりと「気持ち」が形作られてゆく。そんなロマンを感じました。
しーげるさん
言葉も感情も色んな解釈ができ、色んな伝え方ができる。主人公がもっと強く複雑で、でもどうにかして届けたい感情を抱いた時、どんな言葉を選ぶのだろうか。そんなことが軸になっていながら、実は表情が一番雄弁なのがいい。いつか訪れるだろう、最高の表情を浮かべる瞬間が見てみたい。
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今回受賞された6作品は、『なかよし』本誌もしくはデジタル版に掲載される予定です。
歴史ある『なかよし』でデビューを果たす漫画家さんをコミチから数多く輩出できたことを本当に誇りに思います!
そして、次回の第16回コミチ漫画賞も、おもしろい企画を考えております。
現在、企画の詳細を詰めているところですので、近日中にお知らせいたします。
お楽しみに!!
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