”漫画ソムリエ”東西サキ先生のヒット作の法則研究

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"異世界転生ジャンル”の「守・破・離」はここにあり！『ヤンキー悪役令嬢 転生天下唯我独尊』を徹底解説

このコラムでは、毎月さまざまな雑誌やサイトで始まる何十作もの新連載を読んでいる漫画ソムリエ・東西サキ（@tozai69）が、特に漫画家の皆さんに注目していただきたい作品をご紹介します。

今回ご紹介するのは、「コミックヴァルキリー」で連載がスタートした『ヤンキー悪役令嬢 転生天下唯我独尊』（作：赤信号わたる）です。

"異世界転生"ジャンルの基本

平凡な主人公が異世界に転生し自己実現をしていく、「異世界転生」というジャンルをご存知でしょうか？

また、一口に「異世界転生」と言っても、複数の美少年や美少女に求愛される「ハーレム型」や、心が癒される牧歌的な生活を満喫する「ほのぼの型」など、「異世界転生」ジャンルの中でもさらにタイプ分けすることができます。

そして、「異世界転生」ジャンルに共通する基本コンセプトには以下の3つが挙げられます。

・現実世界ではできないことをする

・読んでいて気持ちよくなれる

・読者にストレスを与えない

これらの基本コンセプトから、一部例外を除き、主人公は読者が自分を重ねやすい「無個性型」とされることが多いのも特徴です。

基本から外れたことにより生み出される魅力

ただ、今回ご紹介する『ヤンキー悪役令嬢 転生天下唯我独尊』の主人公は、その「一部例外」に該当します。

"事故によって悪役令嬢の身体を乗っ取る形で異世界転生した暴走族のリーダー"という、たいへん個性的な人物として描かれるのです。

瞬時に自分が異世界にいることを理解する冷静な観察力、「部下の不始末は自分の責任」という思想を持って不正を暴き、問題を解決していくリーダーシップ……これらの主人公の特性がテンポよく描かれるのが本作の魅力で、全体を通して展開やセリフが心地良い作品です。

しかし、これらはイコール主人公の魅力であり、「無個性な普通の人間が異世界に行って自己実現をする」という異世界転生ジャンルのコンセプトとは離れています。（※主人公は現世でもおそらく「出来る」側の人間なので）

そして、「事件を解決し大きな器を示す」という主人公の魅力の在り方もある意味王道的で、異世界転生ジャンルではあまり見ない形です。

そして実は、ここに本作の魅力の秘密があります。

読者にお約束が伝わり切ったジャンルにあえて異物タイプのキャラクターを投入することで、読者の予測を超えてジャンルのスライドを起こす。

このように読者の期待の変化や流れを作り出すことこそが、本作のねらいであると感じました。

冒頭で読者が「見たい」と思った展開を、いい意味で予想を裏切りながらすべて叶えてるのもポイントだと思います。

皆さんもぜひ、個性的な異世界転生ものが読みたくなったら『ヤンキー悪役令嬢 転生天下唯我独尊』をご一読ください。肩の力を抜いて楽しめる作品です！

☆『ヤンキー悪役令嬢 転生天下唯我独尊』の注目ポイント☆
・読者にお約束が伝わり切ったジャンルにあえて異物となるキャラを投入し、ジャンルのスライドを起こす。
・ただし、冒頭で示した読者の期待は全部叶えてみせる。