今年2回目、第8回コミチ漫画賞の総評を書きますコミチ代表のマンディ@daisakkuです。新型コロナウィルスの影響で続々とイベントが中止になっていますが、早く感染拡大が落ち着くといいですね。。マンガのようなエンタメって人命に関わるものではありませんが、心を豊かにできるものだと僕は信じています。世の中、大変な状況であるからこそ心がほっこりしたり、感動したりするような作品を読者に届けるために、コミチ漫画賞のようなオンラインイベントは続けられればと思っています。
第8回目のコミチ漫画賞は、コミチへの投稿87作品、Twitter応募6件の合計93作品が集まりました。投稿頂いた漫画家の皆様、本当にありがとうございます!
今回の受賞作は、どちらも「時間」が印象に残りました。縦スク賞では、縦スクロールマンガならではなの新しい表現に、これからの漫画家さんにとって大きな気づきを与えてくれる作品です。
また大賞の作品は、全国で卒業式をできなくなった「いま」のこの大変な現状を予測していたような作品です。ぜひ1話目(https://comici.jp/articles/?id=16643)から読んでほしい。
それでは、審査員のしーげるさん・シャープさん・たらればさんの寸評です!
<縦スク賞>
ざんぎょう(ひとり)
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(シャープさん @SHARP_JP コメント)
縦スク賞。スマホでマンガを読むことに特化した、縦にスクロールする前提の漫画表現を考える賞です。この作品を読んだ方は一目瞭然かと思いますが、コマ割りを縦スクに最適化するだけではない、上から下への動きに新しい意味をもたらす表現が試みられています。読むにつれ、真ん中の破線の役割が気になって仕方なかったのですが、最後にきちんと回収されます。それはまさに、今回のコミチ漫画賞のテーマである「関係性」を表すものでもあって、作者の巧みな仕掛けにニヤッとさせられました。
思えば、上から下へシームレスにスクロールする流れ自体が、時間というものを表すのに相性がいいのかもしれません。さらにいえば、最後まで読んだ後、スマホなら冒頭まで一気にスクロールを戻す操作も、人生の輪廻を可視化するようだ。そんなことまで思いを馳せることができた、今回の作品でした。
(たらればさん @tarareba722 コメント)
PCで読んだあとでスマホで開き直して読んでみて、点線の時間経過効果と「からまり具合」の演出がより分かりやすくなっていることを実感して、この表現手法の可能性の大きさに気づきました。まさに「縦スク賞」にふさわしい作品です。
3本の点線の軌跡には(繋がり方も含めて)すべて意味があって、読み終えたあともう一度たどってみて「そういうことか」と楽しめました。
今回はほのぼのほっこり系ストーリーでしたが、サスペンスの描写にも使えそうですし、全編これでなくても、「ここぞ」というところで導入する手法もあると思います。
なお著者のひとりさんはツイッターに(マンガのほかに)時々イラストをアップしていて、その独特なタッチに惹きこまれました。未見の方はぜひ。
(しーげるさん @henshu_shigel コメント)
縦スクロールにはこんな表現の仕方もできるのか!と驚かされた作品。真ん中の線の意味に気づいた時にニヤリとしてしまうけど、並列で読んでも、childhoodから点線に従ってつなげて読んでも成立させられているのが面白い。シンプルに見えながら練り込まれていて、いいですね。こういう作品の誕生で、表現の幅がどんどん拡大されていくことに大きな可能性を感じます。
<大賞&新人賞>
娘たちは卒業します(ヤチナツ)
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(シャープさん @SHARP_JP コメント)
こんなん泣くやろ。全国の学校で卒業式が中止になり、とつぜん関係性が途絶されてしまう、いまの私たちの日常にさえ、否応なく重なる作品でした。
このマンガでは、関係性が層をなして描かれます。卒業式を目前に、美術部の先生が亡くなる。唐突に途切れた先生との関係に、どこか現実味を感じられないまま、弔辞を書く部長。手紙とは、渡す相手がいてこそ成立するはずなのに、渡す相手の先生はもういない。
「伝えたい人がおらん」から、その中身も言葉もどこかふわふわしたままで、弔辞を読み上げる時も、部長の心の中は冷静さが支配する。だが、伝えたい人がもういないのに、伝えたいことがもう伝わらないのに、人前でメッセージを放つ虚しさが、同じ部員の「先生にありがとうと言ってくれてありがとう」という言葉によって一瞬で書き換えられる。
自分が書いた手紙は、もういない人宛てに送るだけのものではなかったのだ。そこにいる、同じ喪失感を抱く人の気持ちを代弁する行為でもあった。手紙は先生と私との関係性を示すだけのものではない。先生と関わりあった人の足跡を残すような、1対多の関係性を象徴するものでもあったのだ。
だからこそ、先生不在の卒業式当日。葬儀の時に「ありがとうと言ってくれてありがとう」と泣いたしーちゃんが、亡くなった先生へ屈託なく手紙を描き、部長と卒業するみんなはそれを素直に眺めることができたのだろう。つくづく、いい先生だったんだろうな、と思います。
(たらればさん @tarareba722 コメント)
「大切な思い出」と「大切な場所」という、誰もがひとつやふたつ持っていて、だからこそ表現するのが難しいものの特徴を、とても丁寧に描写していて、著者であるヤチナツさんが「好きだった先生を亡くした感情」について非常に深く考えていたことがよく伝わる作品でした。大切な思い出が、喪失に携わるのは本当にしんどいですよね。もしかすると私たちは、失ってみないと「それがどれほど大切だったか」に気が付けないのではないか、などと考えてしまいました。
「美術部」であることが思い出の「色付け」に紐づいていて、「絵」は描けるけれども自分の中の「悲しみ」はうまく表現できずに、けれど葬儀や弔辞という儀式を通じてゆっくりと自分と周囲に起きている状況を処理していく過程が、まぶしくもあり、また悲しみと共感を深めていました。
すばらしかったです。
(蛇足かもしれませんが、「全部この部屋で出来た」のコマだけカラーに塗ってあるとさらによくなるんじゃないかなと思ってしまいました。黒澤明監督の『天国と地獄』みたいな感じで)
制服の夏服と冬服で時間の移り変わりを描写するのも、とてもうまいアイデアですね。構図にメリハリがあり、セリフのないコマの使い方がとてもうまかったです。
なお今回のコミチ漫画賞は大激戦で、本作と並んで大賞候補になったcodomopaperさんの『十次と亞一』 https://comici.jp/articles/?id=16307 や、本作が新人賞と同時受賞のため受賞を逃した新人賞候補のsiratamairipafeさんによる『もめん漫画』 https://comici.jp/articles/?id=16668 もとてもよかったです。特にご両名にはぜひ引き続き投稿お待ちしております。
(しーげるさん @henshu_shigel コメント)
泣きました。泣かされました。今この作品を読ませてくれてありがとうございます。
「関係性」というテーマ。登場人物が多いのに、それぞれのキャラの感情や立ち位置をしっかり捉えて想像できているんでしょうね。普通なら「先生と私」で収まってしまうところを、それぞれの部員と先生、先生への想いを共有する私と部員たち、その私たちと関わる他の先生たち、と関係性の輪を次々に広げていけてるのが凄い。弔辞を読んだ後のシーンで「この子たちの想いも背負ってたのに」という言葉が出てくるのも凄い。全編を通じて、自分一人で生きているわけではないという目線の確かさ、強さと温かさ、希望を感じさせてくれる作品でした。
また、「先生が美術室でつくる自由はいつも輝いていた」とあるように、どのシーンも思い出に残る輝きに彩られている感じがします。たとえ重さを抱えたり、切なく辛いシーンであっても(部誌とか色々な小物がちゃんと描かれてあるから伝わってくる!)。途中で「先生が作った空気をつなげなかった」とあるけれど、全然そんな風には感じないし、主人公たちみんながそんなことないというラストにたどり着いてくれていて嬉しくてたまらなかった。大切な人の存在は失われてしまっても、大切な時間や記憶や絆が失われるわけではない。主人公たちが過ごした、かけがえのない、素晴らしい高校3年間がちゃんと残り続けるであろうことが伝わってきて胸がいっぱいになりました。
卒業式が中止になったり、縮小されたりしてしまっている今、沢山の人に届き読まれてほしい作品だと思います。
最後に、今年からコミチ漫画賞は以下4点の変更がありました。
(1)Twitter投稿可
(2)縦スク賞新設
(3)サイト上にコミチ漫画賞枠を新設
(4)大ヒット少女漫画編集者・しーげるさんが審査員として参加
その効果のお陰もあり、今回も力作ぞろいで選考は難航しました。
たらればさんもオススメしていた、惜しくも受賞を逃した作品をぜひ読んでください。
『十次と亞一』(codomopaper作)
https://comici.jp/articles/?id=16307
『もめん漫画』(siratamairipafeさん)
https://comici.jp/articles/?id=16668
漫画家の皆さまと一緒に、WEBに最適化したマンガ・フォーマット”縦スク”で、新しい時代を切り開いていけたら嬉しいです。コミチは新時代の漫画家の皆さまのプロデュースを全力で応援します。
そして、次回の第9回コミチ漫画賞は、
お題:#主人公のキャラ
期間:2020年3月3日〜3/29
で、もう始まっています。
第9回コミチ漫画賞は、コミチ創立2周年企画として、『阿・吽』や『かしましめし』を連載中の大ヒット漫画家・おかざき真里先生(@cafemari)にゲスト審査員として加わっていただきます!
大ヒット漫画家に作品を読んでいただく大チャンスなので、奮ってご応募ください。
コミチは、WEB時代ならではのマンガをお待ちしています!
面白かったら応援!
もっと作品を描いてもらえるよう作者を応援しよう!