みなさま、あっという間に秋になりましたね。最近季節の変わり目で、且つ大きなイベントが続いているため、毎月口唇ヘルペスになっているコミチ代表のマンディ@daisakkuです。今月こそは口唇ヘルペスにならないように体調管理を気をつけます。
さて第4回目のコミチ漫画賞も、74ものたくさん作品が集まりました。本当にありがとうございます!
ストーリーテリングとは、「物語を話して聞かせる」です。そういう観点で、大賞の『夜明け前に走り出して(ナストイチハル作)』は読者へ語りかける力がすごかった。最近感じるのはマンガと他エンタメの融合。今回はアニメかと思わせる画力に、マンガの感情変化が組み合わされて、すごく引き込まれました。
そしてラリー賞は「命を継なぐ(ブリ猫。作)。漫画家は、描き直す力=ラリー力がとても大事。そういう観点で、ぶり猫。さんのラリー力は素晴らしかった。大作というのは急には出来ない。1人での推敲も難しい。コミチというプラットフォームは、クリエイターの力を最大化するサービスです。コミチのガチ編集コメントの皆さんを信じ、よい作品をこれからも生み出して頂けたら嬉しいです。
最後に、新人賞の「戻りたい場所戻らない記憶(uhyou作)」。ストーリーテリングというお題に対して、ある意味忠実に描いて頂いて、読了感が素晴らしく良かった。あとは魅力的なキャラ作りですね。次回作、楽しみにしています。
それでは、柿内さん・シャープさん・たらればさんの寸評です。
今回も各人各様のコメントは必見ですよ!
<大賞>
夜明け前に走り出して(ナストイチハル)
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(シャープさん @SHARP_JP コメント)
この作品よくないですか。なにがどうよいのかうまく言えないのだけど、さらにはストーリーテリングというテーマに適うのかもよくわからないけど、この作品は、なんかよい。モノローグによる散文に、時おり自己ツッコミが入る。散文のパートは写真のような写実的な描写が並び、自己ツッコミのパートではいかにもマンガ的な絵がカットインされる。そんな不思議なシークエンスが続くかと思いきや、明け方の徘徊が橋に差し掛かると、主人公は自身の失恋を思い出す。その切なさは、とつぜんの絶叫と疾走で表現される。その後は高ぶった感情が凪いでいくかのように、ふたたびモノローグとツッコミ(後半は太陽へのツッコミ)へ収斂していく。
ラストカット。橋の上に佇む主人公と朝日の遠景は、わけもなく前向きな気持ちというか、若さへの余韻というか、不思議な情感を呼び起こします。この作品は、画の構成こそがストーリーを饒舌に物語っていた。そこに私はなにか新しいストーリーテリングのあり方を感じたのかも。なんかよい理由は、どうやらそこだ。
(たらればさん @tarareba722 コメント)
最初の印象は、写実的な背景とマンガらしいキャラクターの組み合わせが「アニメブックみたいだな」でした。今回のお題は「ストーリーテリング」なのに、絵柄が前面に出てくる作品で大丈夫かな、と勝手に心配したのですが、じっくり読むと、途中からターボが効きだしたように主人公への共感度が高まっていきました。特に太陽とのやり取りが最高です。空気読まずにめっちゃ照らしてくるよねあいつ。
そんな経験一度もないのに、泣きながら夜明けの川面のキラキラ具合に腹を立てている主人公に感情移入しています。
作者さんは感情の外縁をなぞるのがとても上手くて、キャラクターに共感させる技術が優れているので、本作のような「悲しいけど一人で悲しんでいるのは嫌だ」という気持ちだけでなく、「嬉しいけど寂しい」だとか「腹立たしいのにやめられない」だとか「愛しいけど嫌い」だとか「生涯で一番悔しい」だとか、そういう感情表現も見てみたいなと思いました。
もう一点、「あえて描かなかった」ということを重々承知で、個人的にはもう少しだけ「なぜ悲しいのか」という説明がほしかったなと思います。おそらく彼氏さんとケンカしたか別れたかだとは思うのですが、そうした人間関係のストーリーも、もう少し教えてほしかったです。次回作でぜひ。
(柿内さん @kakkyoshifumi コメント)
力作ですね。ひとりノリツッコミのギャグなのかと思いきや、後半は意外にセンチメンタル。詩的な表現で、とっても素敵です。が、個人的にはこの主人公のキャラが失恋でさらにそのぶっ飛び具合を加速させるところが見たかった、、かも。コメディからのセンチ、、、いや、やっぱコメディでしょ!みたいな。もっと、ギャグがみたい。
<ラリー賞>
命を継なぐ(ブリ猫。)
(シャープさん @SHARP_JP コメント)
考えてみればセミほど物語を投影されてきた昆虫もいないのではないか。陰ながらじっと力を溜める存在として、あるいは一瞬に命を燃やす比喩として。私たちはけっこう安易に、セミを背景にした物語を見聞きしてきたのかもしれない。この新人賞の作品でも、セミが命をバトンする象徴として描かれている。ただしここでは、セミは娘の成長を示す「時間」を表す存在でもあって、そこが新鮮な印象を受けました。またラリー(描き直し)によって、セミの寿命に関する定説が現在は異なることにも言及されていきます。セミはどうやら地上で1ヶ月は生きるらしいという説、私は知らなかった。私たちがセミに投影する物語も、少しずつ変わっていくのでしょうね。
(たらればさん @tarareba722 コメント)
物語の演出技法のひとつに、「ミクロとマクロの対比」があります。「細かいもの」をじっくりしっかり見せたあとに「大きな話」をすると、細かいものの細かさ、大きな話の大きさがより際立つ、という寸法です。今回はセミの命の短さと、子供を生み育ててその子がいずれ大きくなって子供を…というスパンの長い話が対比されていました。
これは細かいものをより細かくしっかり描き、大きな話をより大きく描くと、読み手の感情の振れ幅が大きくなると思います。ぜひ次回作の参考にしていただければと。
それはさておき、ブリ猫さんの画角の使い方が、前作(『双極性障害の私がまんが家になった話』)と比べて大きく進化しているのに驚きました。前作はエピソードとして興味深かったもののやや画角が単調に感じられたのですけれども、本作は俯瞰したり寄ったりと「見せる技術」が上がっていて、おお、成長著しいなあと嬉しく思います。
(柿内さん @kakkyoshifumi コメント)
とっても素敵な作品です。たった8ページの中で、展開と感情をしっかり伝え、かつ読者に「おっ!」と思わせる。漫画の技量は短編にこそ表れる、その典型だと思いました。「コミチ漫画賞」のような賞は、どうやって読者を「おっ!」と思わせるか考え抜いた上で、毎月8ページくらいで休まず応募し続けるのが良いでしょうね。自分に合うテーマの時だけ、中・長編で勝負するのではなく。
<新人賞>
戻りたい場所戻らない記憶 uhyou(雨氷)
(シャープさん @SHARP_JP コメント)
今回のコミチ漫画賞のテーマはストーリーテリング。どんな物語を語るかが関門になるかと思いますが、新人賞ではある意味ベタな物語が描かれています。とはいえ舞台が家電量販店(私は大好物な設定)だし、スマホを介して少年と老人の会話がはじまるところなど、今っぽいなと感じます。そして最後まで読んだ私はその「いい終わり方」に思いの外、安堵を覚えました。ベタであろうが、ハッピーエンドはやはりいいもの。SNSを開けば個人の物語があふれかえる時代には、正統ないい話が浮き上がるのかもしれない。そんなことを思いました。
(たらればさん @tarareba722 コメント)
スマホの映像内に出てきた女性の名前、契約時に保護者(父親)の名前を書かせるところがフックになる演出、しっかり伏線になっていて見事でした。話のテンポ、ページの配分、テーマも、とてもよかったです。スマホ画面の幼児と電話の先の父親、ともに同じ位置(額)にホクロがあって、こういう細かい演出も好きです。
だからこそ(新人賞のレベルとしては充分なのですがさらにその先を狙うのであれば)、キャラクターの個々の言動について、もっと磨く余地があるのではないかなと思いました。
具体的にいうと、老人と青年の言動がやや不自然に感じました。
まず老人ですが、スマホを買ったら真っ先に入れようと用意しておくほど思い入れの強い映像でありながら、その映像に映る生き別れになった子供を見ながら「今、この子が生きておったら40歳くらいかのう…」とは、まず言わないと思います(何百回も見ているだろうし何度も年齢を反芻しているでしょうし、なにより亡くなっているなどという可能性に言及するとは思えません)。
また、電気店で偶然知り合った老人が、もしかしたら生き別れになった祖父かもしれないと思いあたった男子高校生は、その可能性が確信に変わったとして、はたして書かねばならない書類を放ってエスカレーターを走り降りて会いに行くでしょうか。まず名乗ってよいかどうか、どう声をかけてよいか、もしかしたらその老人が何かを狙って自分に近寄ってきたのではないか、などと悩むのではないでしょうか。もちろん「走って会いに行く男子高校生」もいるとは思います。が、やはりそうした人物はやや特殊だと思いますし、そうであれば、そういう性格の描写があるとよかったのではないかな、と思います。
やや厳しいことを書いてしまいましたが、ストーリーがよくまとまっているからこそ、つい書いてしまいました。舞台とストーリーそのものはとてもよいので、キャラクターの情念や逡巡を丁寧に描くと、さらに物語が成長すると思います。がんばってください。
(柿内さん @kakkyoshifumi コメント)
ほのぼのした作品で好感が持てます。ただ、少し真面目すぎて、印象が弱い。自分の人生で強烈に印象に残っているのは、どんなシチュエーションですか? 何かいい話を描こうとせず、自分の中の強い感情だけを描くとしたら、どんなものになりますか? べつにストーリーなんて破綻していてもいいので、次はそんな漫画を描いてみては。
最後に、次回のコミチ漫画賞は、
お題:#演出力
期間:10/28〜11/3
です。
演出力は、主人公のキャラ・関係性・画力・ストーリーテリングを組み合わせる力です。
キャラを作り、魅力的な絵で、読者に語りかけて、感情を揺さぶってください。
マンガだからこそできる演出は、キャラを作り、感情を描いて、読者の感情を揺さぶること。読者がそのキャラを応援したいか?また見たいか、を考えて演出してみよう。
WEBマンガならではの演出を待っています!