はじめまして、東京ネームタンクのごとう隼平です。
東京ネームタンクはマンガ制作研究組織として、「漫画家の代表作を作る」というビジョンのもと、「ネームできる講座」や「ネーム添削」などのサービスを提供しています。
今月から、漫画家コミュニティのコミチさんが運営する「コミチ漫画賞」に投稿された作品の中から4作品をピックアップし、ネーム添削をする連載をさせていただくことになりました。
まず、作品のネーム添削をする前に、ごとうのネーム添削のスタンスを述べさせてください。
ネーム添削のコメントは、対象作品だけへのコメントだと思わず、漫画家全員に当てはまる課題点や解決策であると捉えてください。
なので、厳しいコメントであったとしても「これは自分にも当てはまることなんだ」と、自分ごととしてしっかり受けとめてほしいです。
また、このネーム添削はどうしても僕からの一方的なものになってしまいますので、解決策がわからなかったら、東京ネームタンクの個別相談などをぜひ受けていただければと思います。
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それでは第1回目は、じゅんさんの作品『主人公:山川りんご』です。
ぜひ一度作品を読んでから、講評を見てくださいね。
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共感か興味を持たせよう!
この作品は非常に丁寧に描かれていますね。
しかし逆にやや丁寧すぎて、キャラクターの面白みが損なわれているかもしれません。
大前提として、この主人公の「りんごちゃん」に共感させるか、興味を持たせるかして、読者の心を掴むように作ってほしいです。
彼女は、自分の名前でもある「りんご」に対して「超つまんない」と言っていますが、この発想はやや特殊だと思います。
となると読者に「確かにりんごって超つまんないな」と共感させるには、それなりの”仕込み”が必要になります。
それは少し難しいので「この主人公、何かおもしろいこと言ってるな」と、興味を持たせることを考えた方がいいでしょう。
段取りのしすぎは危険
段取りをよくしすぎることによって予想通りの展開になり、かえって読者の心に響きにくくなってしまうことがあります。
「なんの会社かわかんないってことは、何やらされるかわかんないってことじゃん」と言ってから⇒「起業しよう」となると、読者の予想通りになってしまいます。
ここは前振りのセリフをなくして、もっと大胆な構成にすることもできそうです。
例えば、「りんごなんて超つまんない。私は鳥みたいに自由に羽ばたきたいの」「だから私起業するね」という流れでも、問題なく繋がりますよね。
むしろこの方が、「おお!いきなり起業するのか!どうなるんだろう?」というふうに読者の興味を引くことができます。
「主人公のしたいこと」に向かうには何が最短なのか、ということを考えて構成を作ってみてほしいです。
回想の役割を意識する
物語をつくるときは、常に読者の感情を想像しましょう。
主人公が「起業する」と宣言したら、「おもしろそうだな。この子の起業はどうなるんだろう?」と、読者は起業の行方に興味を持ちます。
しかし、次のシーンでは主人公の過去の失敗について描かれています。
ここで、回想がやや逆効果になってしまっています。
6P目の「私は問題ないと思ったので」というセリフは魅力的ですが、回答で入れずとも、冒頭などで「うん、問題ない!私起業します!」と使ってみるなど、いいセリフを導くための段取りも省略してしまって大丈夫です。
事実として過去のファッションショーを押し切って開催したことを伝える必要があるとしても、それならば「私起業する」という言葉に対して友人の女の子が、「前にも勝手にファッションショーをやって怒られたじゃん」と返答する、くらいで済ませられます。
この場合、りんごちゃんの返事は「忘れたわ」などで流してしまってOKです。
このようにちょっとしたやりとりでも、回想と同じ役割を果たすことができます。
過去の顛末をしっかり描かなくてはいけない、ということはないので安心してください。
また、回想をここで入れるべきではない理由がもう一つあります。
そもそも回想とは何のために入れるのか、ということを知ってほしいです。
回想は「回想の次に出てくる感情をより効果的に見せるため」に入れます。
そのことを念頭に今の流れを確認すると、4P目から6P目にかけての回想の後に出てくる感情は、「好きなことして生きていく」というものですね。
でも、これは回想の前にも言っていました。
つまり、回想の前と後で主人公の感情は変わっていないことになります。
もし、回想を挟むことによって、この「好きなことして生きていく」という気持ちが強くなったり、あるいは別の感情に変わったりしたら、回想の使い方として正しいということです。
感情の流れが大切
そもそもマンガは感情を描くものです。
しかし、この作品では上手くいかなくて追い込まれていく主人公の感情がやや省略されてしまっています。
感情ではなく出来事が主体になっている部分が見られます。
7P目の「調子どう?」「大丈夫!」というやりとりだけでは、彼女の感情を読みとることはできません。
同じ感情が続いているときは省略できますが、基本的には変化していく感情の流れこそ描いてほしいです。
10P目で、主人公はなぜ「自由な人たちってもしかして企業を味方につけているのかな?」と思ったのか、そしてその気づきに対して彼女がどう思ったのか、ということに着目してください。
気づいたときの主人公の表情から、読者にどんな感情を受け取らせるのか、ということを考えるといいと思います。
最後まで主人公の感情を描き続ける
物語というのは、感情がクライマックスに向けて強まっていく様子を描くものです。
目線のキャラクターの感情を中心に、軸にすることが基本です。
ここで言うと、軸になるべきは主人公であるりんごちゃんの感情です。
しかし、今回のマンガは友人の感情モノローグから始まり、最後は社長の感情になってしまっています。
これは物語づくりのセオリーを少し外しすぎていると感じます。
また、クライマックスに向けてりんごちゃんの感情が強く盛り上がっていないことが気になります。
これはなぜそうなってしまうかというと、彼女のしたいことが叶っていて、障害がない状態になっているからです。
「起業する」と言って起業できてしまっていること、服作りが上手くいっていないことに心のダメージをあまり受けていないように見えること、さらに「企業を丸裸にしてやる」という気持ちも社長に認めてもらえるなど、「障害」と言うべきものがすぐに片付けられてしまっているのです。
例えば、「お前なんか絶対この会社に入れない」と社長に言われて「絶対入社して丸裸にしてやるからな」と思う、という展開であると、より盛り上がるのではないでしょうか。
強い感情の高まりを作るには、主人公のしたいことをなるべく叶えないようにしていくことが大切です。
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以上、ネーム添削いかがでしたでしょうか?
我が道を行く強い女性を描こうとする思い、とても伝わってきました。それをより生かせるよう、引き続きがんばってくださいね!
それでは、次回の作品も楽しみにしています!
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