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藤沢周平「用心棒日月抄」シリーズを一通り読み終えて、これは創作活動に活かせそうだと思ったことがある。

それは、このシリーズが「物語を無限に生み出す『構造』と『キャラクター』」を用意している、ということだ。小説やマンガをかきあぐねている人のヒントになればよい、と思って記事を起こした。

用心棒日月抄の舞台は、かの赤穂浪士が活躍した時代とほぼ重なる。主人公の青江又八郎は、藩の御家騒動に巻き込まれて、毎回脱藩を余儀なくされる。脱藩して向かうのは、江戸だ。そこで、貧しい浪人生活を余儀なくされるのである。

シリーズ1作目は最も傑作なので詳しく分析してみようと思う。ストーリーラインは三つある。「又八郎を殺そうと、藩の黒幕から送り込まれた刺客とのバトル」、「江戸での生活の活計のために引き受けた、様々な用心棒稼業」、「用心棒稼業の過程で巻き込まれた、赤穂浪士と吉良方との暗闘」である。

この三つの中で、「物語を無限に生み出す構造」を有しているのは、多分、用心棒稼業の話である。腕っ節の強い男(青江又八郎)が、相方(細谷源太夫)と組んで、癖のある人間に雇われ、ゴタゴタに巻き込まれる…。雇い主のキャラクターと、ゴタゴタの種類を変えるだけで、物語は自然に成立するだろう。そこに、藩の陰謀(中規模な物語)と、赤穂浪士の話(大きな物語)を絶妙に絡めているのである。
つまり、「(ドラえもん的な)良い意味でマンネリ化しやすい小さな物語」に、「中規模な物語」と「大きな物語」を乗っけることで成立している話なのだ。

だが、構造だけで物語は成立しない。
より重要なのは、登場人物(キャラクター)の方だ。
青江又八郎は暗い影を背負ってはいるが、悪を嫌い、弱いものを助ける好漢だ。剣の腕がべらぼうに強い。我々は、日常でやりきれない不満があっても、それに風穴を開けることはできない。だから、強くて、他人のために剣の腕を振るう青江のような人物に、純粋に憧れてしまう。
そして、細谷源太夫。わたしはこの人物が大好きだ。大酒飲みで、ガラが悪く、自堕落な人物。妻と6人の子供がいるが、どこかに仕官しようという気はあまりない。だが、青江を決して裏切らない。必ず助けに駆けつける。剣の腕もかなりのものだ。(このような人物は、昔のアルバイト先に結構いた。好感を持つのはこの辺にも理由があるのかもしれない)
そして、藩の中老、間宮。様々な雇い主。
これらの登場人物が、ユーモラスな人間性と悲しみを背負って描かれている。

何年も創作行為をしてきて、物語で最も肝心なのは「キャラクター」なのだと言うことが、最近わかってきた。何か傑出した特徴のあるキャラクターを作ることができれば、物語は後からついてくることもわかった。

大ヒットし、長く続いているマンガや小説には、その原動力となる構造とキャラクターを有している。小説や漫画の指南本の最初に書かれている基本的なことだが、理解するのにはかなりの時間がかかった。

もちろん、マンガには画力が、小説には文章力が重要だ。だが、それらがある水準に達しているなら、「物語を無限に生み出す『構造』と『キャラクター』」を、既存の作品の中から見つけ出してみてはいかがだろうか? これは、結局、自分で見つけるしかないのだ。

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2020/1/21 #コラム
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