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シャープさんさんの作品:唐突さにうろたえる
気分はもう中堅、@SHARP_JP です。自慢じゃないけど、そこそこ長く会社員をやってきたのに、私はいわゆるビジネスマナーに疎い。お恥ずかしい話だ。私はひとりでする仕事の歴が長かったせいもあり、ビジネス上のお作法を知る機会が少なかったのかもしれない。いままでの数々の不作法、どうかご容赦ください。 ただし、仮にマナーだとしても「それってどうなの」というようなしきたりだってあるはずだ。あるいは「これはマナーではなくローカルルールなのでは」と疑ってしまうような不安定な慣習。そんなの常識だろうと言われても、どうにも釈然としない掟めいたルールに、大人になるとしばしば直面する。 中でも私がいまいち釈然としないビジネスマナーのひとつに「退職を知らせる一斉メールは最終出社日に出す」というものがある。「退職願 書き方」や「退職願 いつ」を幾度となく検索してきた私だから、辞めますとおおっぴらに公表するセンシティブさはよくわかる。しかしお知らせを受け取る側からすれば「明日からいません」という一斉メールは、あまりに唐突ではないか。返事を書いても、あなたは有給消化中だ。もう読まれる可能性がないではないか。 もちろん間柄やデスクが近ければ、私にだって辞めるという知らせはもっとはやくに伝えられるだろう。だけど退職メールを差し出す人すべてが、近しいわけではない。そして近しくはなくとも、ほんのひと時だけ世話になった人もいれば、なぜか印象的な一言をかけてくれた人もいる。遠くから一方的に尊敬していた人もいる。濃い仕事時間を一緒に過ごしたわけではないから、SNSアカウントもメアドもLINEも知らない。コンタクトできなくなる前に、せめてお礼と私の思い出だけは伝えたい。そこそこ長く働いていると、そういう人がいるはずだ。 なのに、伝えられない。明日になれば、私の返信は届かない。退職メールの発信時間からタイムリミットが残りわずか、あるいはもう過ぎたことを知り、返信ボタンを押せずに呆然とすることを、いったい私は何度繰り返してきただろう。それがマナーだと言われればそれまでだけど、それが常識ならあまりに不作法で、あまりに冷たくないか。 


 返す言葉(ヤチナツ 著)

唐突な「辞める」に遭遇すると、人はうろたえてしまう。きょうが最後と書かれた退職メールにぼうぜんとしてしまうくらいだから、同僚(しかもおそらく仄かな好意を抱いていた人)から、目の前で「辞める」を伝えられると、狼狽してどうしたらいいかわからなくなる。 取り乱した先になんとか言葉をかけようと咄嗟に出てきたのが、まるで著名なアスリートが引退会見で聞かれるような質問。「選手は引退してもサッカーは続けますか?」 輝かしい実績を収めた選手なら夢のある回答もできるだろうが、こちらは仕事に息切れするワーカーだ。それを聞いていったいどうするのか。自分でもよくわからない言葉をかけてしまうほど、唐突な辞める宣言はキツいものがある。 多くの人はいつだって、人の門出を祝いたい気持ちはあるだろう。私もそうだ。だからその時は、自分なりに言葉を選び、落ち着いて心の内を綴りたい。そのためにもこれからは「退職の一斉メールは最終出社日の3日前まで」というビジネスルールにできないだろうか。こんなご時世だから、仕事の上でも心のざわつきは、できるだけ少ない方がいいと思うのだ。

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