バイラルするアマビエのこと

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ラリー元
アマビエ描いた
シャープさんさんの作品:バイラルするアマビエのこと

みなさん達者にしていますか、@SHARP_JPです。まだ3月ですし、2020年がはじまったのもつい先日と言っていいと思いますが、たとえば今年の正月、現在の状況を予想していた人なんていたのだろうか。まさかこんな世界に突入するなんて思いもしなかった。いま私が声を大にできるのは「なんて年だ」という叫びだけだ。


災厄は予期せぬところからやってくるものだから、いまの世界の到来の仕方はまさに災厄と呼ぶべきものだろう。だが一方で歴史とか地政学といった、長い長い視点で見れば、災厄は繰り返されてきたわけで、その実例の数々は歴史の出来事として、しっかり記録されている。今回だって、私たちそれぞれの、一回限りの人生においては寝耳に水な災厄でも、人類史あるいは地球にとっては「またお前か」という事態なのかもしれない。


だからこそ、私たちはあたふたしつつも、どこかで落ち着きを取り戻さねばならないし、そうするために私たちは歴史を学ばねばならない。疫病の史実が載っているのはなにも歴史の教科書だけではない。膨大に残された書物、物語や言い伝え、あるいは石碑や寺といった建造物にも記録されているはずだ。


そして2020年のわれわれは、新たな史実をインターネット上で知ることになる。史実というより、過去からの申し送りとも言うべき、江戸時代からのメッセージが日の目を見る。しかも「なんだかかわいい」というかたちで。そう、みなさんご存知、アマビエだ。


「もし疫病が流行することがあれば、私の姿を描いた絵を人々に見せよ」と予言を残した海の妖怪アマビエ。京都大学の図書館に保管されていた江戸時代の瓦版が、疫病が猛威を振るう2020年のわれわれの前に現れた。アマビエ出現のニュースをレポートとイラストで報じた瓦版はスクショとツイートによって瞬く間にシェアされ、その予言に従う者が続出する。瓦版のキュートなアマビエの姿は、人々の創作意欲も刺激したのか、日本のスマホにアマビエの亜種が出現し、数え切れない人が目にすることになる。


まさか当のアマビエさんも170年を経て、絵心を心得た人がこんなにいるとは思わなかっただろう。ましてや「絵を見せる手段」も「絵を見る手段」すら、ここまで万人に解放されていることだって、思いもよらなかったことに違いない。アマビエさん、疫病は予言できても、スマホやツイッターは予想できなかった。ただ結果的に、我の絵を描いて見せよという申し伝えは、これほど忠実に、いやそれ以上に成就したのだから、どうかアマビエさん、この災厄をよろしく鎮めてください。



アマビエ描いた 十次と亞一(codomopaper著)



これもその一例でしょう。この作品について補足しておくと、金色夜叉が連載されているような、明治時代を舞台にした「十次と亞一」という連作の派生作です。陽気な風刺画家と字が書けない小説家のやりとりが、なんとも味のある筆致で描かれる不思議なお話なので、本編も読んでみてください。


で、「私の姿を描いた絵を人々に見せよ」のお話です。予言の通り描かれ、そしてこのように、私やあなたがその絵を見た。ツイッターではいまもなお、どんどん描かれ続けている。もはや瓦版の二次創作、伝承妖怪の二次創作とでも言える現象として、アマビエの姿を描いた絵が爆発的に増殖している。その様子はまるでウイルスがバイラルするようで、言い伝えというものは、それ自体に世相や寓話性を含んでいるのだなとつくづく思うわけです。


ところでこの作品では、登場人物がアマビエをアマエビだと勘違いしている。ネット上で同様に空目した人も多いだろう。その勘違いの増殖ですらデマに振り回される私たちの姿と重なるようで、と続けるのは考えすぎだけど、そんな折、あの水木先生も自身の日本妖怪大全という著作にて、アマビエをアマエビと誤記されていたと知り、なんともほのぼのとした気持ちになった次第です(のちに修正されたそう)


それにしても水木先生がご存命だったら、このアマビエ現象をどう評されただろう。まずは落ち着け、そして昼寝でもしろとでもおっしゃられるだろうか。

作者
 
234   #コラム 3/19更新
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