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シャープさんさんの作品:買いたい時が買い時

新しいコートを買おうと思ってから冬が3回通り過ぎました、 @SHARP_JP です。すっかり洋服をアプリやネットで買うようになって久しい。たまにはお店で服を見るかと入っても、ネットで買えばいいか、と思い直してすんなり退散してしまう。コロナと大きいサイズの服がトレンドというか定番になったせいで、ネットでいいか、が完全に定着したように感じる。もちろん、だんだん「これがいい」より「これでいい」となるのが加齢だし、私の生活や自意識における服装のウェイトが下がったせいもある。

 

とはいえ「なんでもいい」とまではならないのが装いの難しいところだし、服選びの時間が激減したわけではない。スマホを点ければ膨大な服を物色できるのだから、細切れにウィンドーショッピングをしているようなものだろう。ウィンドーショッピングなんて言葉を久しぶりに使った自分に、いま驚いてしまった。外出という行為が一変してしまった世界で、ウィンドーショッピングよ、元気にやっているのだろうか。

 

とにかく私の場合は、ZOZOのお気に入りタブにはけっこうな数の洋服や靴がちょくちょく追加され、時々カートへ移動して、お気に入りがいくつか減る。電車に乗るとけっこうな割合の人がずらりと洋服のサムネイルが並ぶページを見ているので、似たような人は多いと思う。そういう人はみな、セールだバーゲンだと言ってた昔に比べて、メリハリのない、のっぺりした買い物をするようになったのではないか。

 

自分の財布に余裕があるかどうかは別にして、私は「そのうち買うかも」という洋服を引き連れて生活している。購入未満の買い物が列をなし、家のクローゼットとは別に、そのうちクローゼットに入るかもしれない服のクローゼットが、スマホの中にできあがっている。そしてそのクローゼットは清々しいまでに「買えよ、はやく買えよ」と促してくることは、みなさんご承知のことであろう。

 

私のそのうち買うかもクローゼットは、週の後半に差し掛かるといっせいにディスカウントされ、週が明けるとスンと元の値にもどる。あれほど「いまが買い時ですよ」と騒がしかった週末も、月曜になればクローゼットは嘘のように凪ぐ。その繰り返しに、私はいつしか慣れてしまった。

 

もちろんその繰り返しこそがだんだん買う気になる仕掛けであることはわかっている。ヒトはどうやってモノを買うかを冷徹な分析でもって導き出された策であろうことも、職業上の経験からうっすらとわかる。しかし今の私には、値引きと値上げの繰り返しが、もはや潮の満ち引きのように知覚されるのだ。たぶん私は、月の満ち欠けと潮の満ち引き、そしてZOZOのお気に入りに登録した服の値の上下に、生きるサイクルが影響されている。そんな気がしている。

 

 

#振り返りマンガ(shirokoueda 著)

 

 

とにかく私の買い物は、まあ後でいいか、に侵食された。また安くなるし、いつでもいいや、というところまで後退してしまった。かつて買い物の名言として響いた「買いたい時が買い時」も、買い時そのものが見つからないのだ。

 

たしかに昔はもっと焦燥感があった。とりわけ洋服にはそれがあった。だからこのマンガのように、お得に買えなかった後悔もあったはずなのだ。もしかしたら、壊れたから買うという、後ろ向きなきっかけがない買い物は、売る側にとっていまとても難しい行為なのかもしれない。そもそも買いたい時があるモノは、恵まれているのだろう。私は買いたい時が見つからない、迷子になりつつある。

 

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2022/12/15 コミチ オリジナル
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