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佐渡島 庸平(コルク代表)さんの作品:事故で亡くした娘と再会できた、父親の気持ちは?【強い感情が生まれた瞬間を漫画にしよう(4)】

コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、長年温めてきた漫画の企画を「おすそ分け」としてシェアするこの連載企画。


※企画背景についてはコチラ→『このアイデア、作品にしませんか? 編集者・佐渡島庸平の企画のおすそ分け、始めます! 』


12月の企画テーマは、「感情が強く動いた瞬間」です。ものすごく強い感情が生まれた(生まれたであろう)瞬間を見つけ、その感情を最も有効に伝えるための物語をいかにして紡いでいくか。「瞬間の感情を軸にする」というアプローチの物語のつくり方として、具体的な企画を4つ紹介しています。


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娘を失った父親が、娘の心臓を移植された男性の鼓動を聞く


「強い感情が生まれた瞬間を漫画にしよう」がテーマの、最終回。


4つ目となる今回の題材は、佐渡島さんが「これは物語のきっかけになる!」とtwitterでもシェアしたノンフィクション映像から。感情が強く動いた瞬間を見つけるのは、世に広まっている動画からでもいいのです。


佐渡島さんの琴線に触れた動画はコチラ→急死した娘の心臓を移植され命を救われた男性に会いに来た父親、亡き娘の心臓の鼓動を聞く


プールの事故で、ある日突然20歳になる娘を亡くした父親。脳死状態になった娘の心臓は、心不全の成人男性に移植されました。


悲しみにくれた父親は、移植された男性の家まで自転車で旅をします。その距離、2200キロ。


ようやく会えた父親は、移植先である男性から聴診器を受け取ります。「どうぞ(聞いてください)」と男性。父親は、聴診器を通して、動き続ける心音を聞きます。そして、小刻みに震えながら静かに涙を流すのです。


今回は、娘の鼓動を聞いたこの父親が「娘に会えた!」と思えた瞬間について。


愛娘を亡くした父親は、どんな思いから移植した心臓の音を聞きたかったのか?


そして、娘の心臓を探して、再会した(鼓動を聞いた)。この瞬間の強い感情が最も伝わるような物語はどうすれば作れるのだろうかと考えて、物語を描けばいい。そう佐渡島さんは言います。


では、今回の企画のポイントを、佐渡島さんから詳しく教えてもらいましょう!


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刻みづける娘の心音を聞くことで、娘に会えた……!


佐渡島: 「この瞬間って、ものすごく強い気持ちが生まれたにちがいない!」。 そんな風に思うのは、日々のニュースや動画の中にもたくさんあります。


この動画は、たまたま見つけた実話です。


娘さんを、事故で亡くしたお父さん。娘は脳死状態となり、その心臓は移植に使われて、娘とはまったく似ていない黒人男性の心臓になりました。


基本的に、臓器を提供する側は、移植してもらった相手と会うことはできないといわれていますよね。娘の死後、このお父さんは家族として臓器提供に承諾したわけで、移植先の相手に会えないことも、会っちゃいけないこともわかっていたと思うんです。


でも、娘を失った深い悲しみのなかで、会いたい気持ちは募っていった。


「娘に会えなくてもいい、その心臓の鼓動を聞きたい」。そう願ったのではないでしょうか。


お父さんは、娘の心臓によって命を救われた男性を探して、たどり着きました。対面して聴診器を受け取ったお父さん。


男性の胸に聴診器を当て、静かに心音を聞く。心音に耳をすましているときのお父さんのたたずまいが、めちゃくちゃ魅力的なんですよね。


ドク、ドク、ドク、ドク、ドク……。


鼓動を感じたときの、お父さんの気持ち。「娘に会えた!」という感情を、物語にしてほしい


このシーンをクライマックスにして描いてもらえると、僕としてはうれしい。


感情の強い瞬間を見つけたら、そこをピークに持っていくために広げていく。この瞬間の気持ちを最も伝わる物語にするためには、その前でいかに描くのがいいのか。過不足なく考えていくわけです。


「この感情を描きたい!」という強い思いを、漫画家は持っておいてほしい。


小山宙哉さんは、『宇宙兄弟』の連載を始めた当初から「この感情を描きたい!」とずっと考えていたことがありました。


ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬の開発をする伊東せりかが、顕微鏡をのぞいてALSの治療薬開発に大きく近づく細胞を見つけたその瞬間。その時のせりかの感情を描きたい、と。


感動であふれ出る涙が無重力でせりかの周りを囲む。無重力ならではの涙の絵を描きたいと、小山さんは初期から決めていたようです。


作家自身が強く思い、そこをどう演出するかに注力することはすごく重要です。


いろんな人の感情が強く動いた瞬間を探し続けることこそ、漫画のネタを探すということ


その瞬間を見つけたら、メモしておくことをオススメします。その一つひとつを軸に、短編も長編も必ず作ることができます。


ぜひ、意識してみてください。


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「強い感情が生まれた瞬間を漫画にしよう」シリーズは、今回でおしまい。次週からは、「大きな時代の流れを読んで漫画にしよう」という視点から、企画の立て方や作品のつくり方を学んでいきます。


聞き手・構成/平山ゆりの @hirayuri &コルクラボライターチーム

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