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コミチさんの作品:【テーマ2「人生の最終段階」】 ▼エピソードNo.4 「人生の最終段階」在宅医の視点

その男性の訪問診療を始めた当初。その家の中には、男性が表彰された証がいくつもあった。

「やっておられたのですか?」それが男性との最初の会話だった。

自分も同じ趣味があったので、それ以来、訪問のたびに必ずその話をするようになった。

何度か訪問診療を重ねたある日、男性がぼそりとつぶやいた。

「もう趣味もできないのなら、長生きしても家族に迷惑をかけるだけだし、楽に逝きたいな」

確かに、穏やかに逝けるのであれば、それが理想かもしれない。

そのように感じて、すぐに男性の介護を主に行っている娘さんに伝えた。

3人で話し合った結果、もしものときには、人工呼吸や心臓マッサージなども希望しないということで、具体的に決めていった。

そのようなある日、男性の心肺停止は突然のことだった。すぐに駆けつけると、娘さんは少し動揺しており、何か処置をした方がよいか尋ねてきた。しかし、事前の男性の希望のことを思い出し、希望通りに心臓マッサージなどの延命治療を行わず、最期を看取った。

その後、生前に男性が書き残していた記録が見つかった。

患者さんが希望を託してくれること、人生に寄り添えることは、在宅医でなければできない経験だと感じた。

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