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しーたかさんの作品:どん底風景
私は売れない画家であった。偉そうに講釈を垂れるので画家仲間には敬遠されていた。時には売れている絵をこき下ろし、そんな時は仲間たちもいつもより強めにうなずいてくれた。しかし偉そうにはしていたが、売れる絵を描けるわけではなかった。私はプライドの塊だった。 ある時、画家仲間が女友達を紹介してくれるという。その女はヨウコといった。彼女は自立していて家賃が10万以上する部屋を目黒区に借りて住んでいるような女だった。ヨウコと話すと楽しかった。今まで感じたことのない幸福な感情が溢れ、心が躍るような気持ちになった。それからは時折連絡し、会い、関係を深めた。お互いの家を行き来するようになっていた。 ヨウコが昔好きだった男は夢追い人だったという。いまだに好きで、好きで好きで、でも、好きでも一緒にいることはできなかったと言った。私は心の奥底から嫉妬していた。 私も夢を追っている。最近は段々と形ができつつあると言う感触があった。私と彼の違いはなんだろうか・・。ヨウコの昔愛した男のことが気になっていた。その男も同じ夢追い人で、そしてそれが破局していることが気になっていた。 ヨウコは私のことを知るにつれ、私に対して距離を取るようになっていた。 あんなに心も体も近づいたのに・・。私は焦っていた。 焦ったがゆえに、強引に、気持ちを確かめようとした。それは失敗し、もう会うのをやめましょうと告げられた・・。 それから一年たっていた。私はいまだに強烈に、ヨウコのことを好きであった。しかし連絡を取れずにいた。いや、紹介した友達伝いに情報は入ってきていた。新しく彼氏ができたらしい。しかしそう言う話を聞いても、私はそれがヨウコの本当の気持ちではないと、思っていた。思おうとしていたのかもしれない。いまだに私のことを好きなはずだ。ただ連絡が取りにくいだけだ、と、そう思っていた。 ある時連絡があり、ヨウコに会うことになった。正確には、紹介してくれた友人と数人の仲間たちが集まっての飲み会であった。 1年ぶりに会うヨウコは美しく、手が震えた。顔が紅潮していくように、高ぶる気持ちを抑えることができなかった。 直に友人が立ち上がり、発表があると言った。私を呼ぶくらいだから、ヨウコが破局したのではないか?そんな淡い期待を抱いていた。しかし実際は逆だった。 結婚することになった、とヨウコはいった。 相手は夢追い人ではなかった。堅実で真面目で、しっかりした人なのだと言う・・。真逆。私とは真逆の人間だった。 その男は優しいのか? その男はどんな顔で笑うんだい? その男はどんなふうに君を抱くんだい? 負けた、負けた・・。 はしゃぐヨウコを見ながら、目の前がぐらぐらし、ぐるぐると回る。そして光を失っていく。 そしてヨウコは近づいてきて言った。 あなたはいい人だから、きっといい人が見つかると思う。 でも、選ばれなかったじゃないか。いい人。いい人とはなんだ。 いい人にいい人が見つかると言うのか・・。 負けた。これはただの負けだ。どん底まで落ちた。 もうこれ以上の底はない。 ただ、這い上がるのみ・・ 光が見えるまで。


うっかり消えたので再投稿・・

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