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シャープさんさんの作品:さまよえる買い物

お買い物してますか、@SHARP_JPです。躊躇なくスマホでモノを買うようになって随分と経つ。仕事の資料を見ていたら、巣篭もりだの在宅勤務だのでここ一年、ネットの買い物率がどんどん増えているとある。ここを読んでくださるみなさんも、ネットやスマホでモノを買うことが得意な方だろう。


なにをそんな当たり前のことをと訝る人もいると思う。だがほんの10年くらい前は「言うてもそんなスマホでモノを買うか?」と考えられていたのだ。私の仕事はずっと「ネットで買ってもらう」領域の近くにあったので、モノを売る側にこそ、スマホでモノを買うことへの半信半疑が根強いことを実感していた。殊に耐久消費財である。大きいし、設置もいる。値段も張る。「さすがに家電はスマホで買わんだろう」というのは、私の周囲の大方の意見だった。いまでも年配の向きはそうだと思う。


しかし実際はどうか。日々ツイッター上でいただく家電の買い物相談は、3ターンを待たずに購入に至ることも多い。どれがおすすめ?のリプに私が返し、型番が検索されるしばしの後、買いました!とECサイトのカート画面がキャプチャで送られてくる。お買い上げありがとうございますと私が言うまでわずか数十分。家電はすでに、スマホで買うモノの一員だ。現に私も最近、スマホでドラム式洗濯機を買った。そこに躊躇はなかった。


洗濯を乗り越えろ!洗濯マンガ!(うさ/ 著) 


そんな時に出会ったのがこの特異なマンガである。家事における洗濯というタスクが嫌いでしょうがない作者が、あーでもないこーでもないと言いながら、迷った末にドラム式洗濯機を買うドキュメントだ。ネタバレがこのマンガのおもしろさを減じさせることはないから言うけど、選ばれたのはシャープのドラム式洗濯機。まずはお買い上げありがとうございます、と言いたい。


しかしこのマンガをコラムに取り上げたのは、シャープが選ばれたからではない。マンガで描かれる買い物の過程が「やっぱりいいな」と思ったからだ。機能、価格、見た目、コストパフォーマンス。私の生活になにが必要で、なにが必要でないか。どこが譲れなくて、どこが妥協できるか。買い物はしばしば、自分の生き方について、微に入り細に入り考えることを強いる。そのあーでもないこーでもないがたのしいなとあらためて感じさせられたのだ。


別に私が言うまでもないが、いまや洗濯機の機能に劇的な差はない。各メーカーの洗濯機を並べたところで、本質的な差はないに等しい。しかしいざ買う者の身になると、その微細な差が帯に短し襷に長しと化してくる。小さな差が大きな差となって、われわれの暮らしの再検証を迫る。かくしてエンドレスな逡巡がはじまる。


極論すれば、その逡巡こそが買い物の醍醐味なのだ。これまでの自分を振り返り、買い物後の自分を夢想する。財布とこの先数年の満足感を行ったり来たりする。そうして、あらゆる角度から自分や家族の未来をシミュレーションすることに疲れた頃、ようやくひとつの選択肢が見えてくる。もはや旅だ。


逆に言うと、あーでもないこーでもないと逡巡されなくなった買い物は、そのモノのジャンル自体が死に近づいているのかもしれない。買った後のことを想像されることなく、どれもいっしょと一顧だにせず購入されるモノ。もはやそこには、価格差だけでやりとりされる、のっぺりした商売の荒野がひろがるばかりだ。


そして私はいま、高速で完了するツイッターでの買い物相談に、一抹の不安を感じているのだ。たとえスマホを手にしたお買い物でも、どうか家電があーでもないこーでもないと頭を悩ませる、ややこしい行為であり続けますように。そう願うばかりである。 

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