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シャープさんさんの作品:それは私の仕事ではありませんという仕事

秋深し、インドアが捗りますね、@SHARP_JPです。会社のツイッター運営という仕事柄、私は問い合わせというものをよく受ける。 


「テレビが映らなくなった」「エアコンから水が垂れてくる」「アプリが繋がらないんだけど」といった、故障に関連しそうな困りごとから、「ひとり暮らしをはじめるので冷蔵庫はどれがいいか」「壊れたレンジを買い換えたい」「加湿器のおすすめ教えて」というような買い物相談、あるいは「取説がなくなった」「海外でも使えるか」「交換フィルターはどれ」などのちょっとした質問まで、多い日なら三桁を超える問い合わせをツイッター上で受ける。 


数が増えると、私の手に負えなくなる。時間だって足らない。また私では答えようのない専門的なことや、私でも知りえない会社や製品の事情があったりして、ツイートで回答しきれない問い合わせはどんどん発生する。当然のことながら、ワンオペの限界というものは存在するのだ。 


会社にはコールセンターという体制があるのだから、お客さんの問い合わせはなんでもかんでも転送すればいいという考え方もある。実際に私も、お客様の相談をお客様相談室に相談する時はある。だけど自分の原則として、ツイッターで寄せられた問い合わせにはツイッターで、できるかぎり自分で応えることにしている。 


また、会社のツイッターなんてしょせんは広告の延長なのだから、こちらの言いたいことを一方的に発信して、お客さんに応答する必要などないという考え方もある。運営をはじめた当初の私も、そうするように命じられていた。が、いまではできるかぎりすべての問い合わせになんらかの反応をするよう、自らに課している。 


なんでわざわざそんなことをするのかというと、理由は複雑でも高邁でもなくて、そうするのがモノを売る人間としてまともなふるまいだと思うからだ。私が調べれば話は速いし、私が答えれば早く終わるからである。ただそれだけだ。 


当たり前だが、社員である私は自社製品の目利きである上に、自社サイトを熟知している。どこになにが載っているかを隅々まで把握している私が調べ、必要な情報の受け渡しをツイッターで完結できれば、お客さんも会社もストレスがない。問い合わせを受けた私は、そのひと手間を惜しむべきではない。ただそれだけだ。 


もちろん、そのストレスフリーな経験が、お客さんにとって会社の好印象につながるであろうという打算は私にもある。打算があるからこそ続けられるのかもしれないが、それ以上に私は「それは自分の仕事じゃない」という切り捨てを見せるのが嫌なのだ。言い換えると「会社の都合をお客さんへ押し付ける」ことへの羞恥である。 


たとえ効率や利益を合理的に追求した結果であろうが、会社で組み上げた組織や制度はどこまでいっても「我が家の都合」だ。家庭の事情は家族でないとわからないように、それはあくまで会社の内側のハナシであって、外は関係がない。外側にいるお客さんにとっては、いつだっていちばん近くに見える社名や社員がすなわち、その会社との接点だ。 


会社のツイッターだって、同じだろう。どんな機能を持ち、どんな目的のもとに運営されているからといって、それはあくまでこちらの都合だ。ツイッターを使う人にとっては、会社のアカウントがいちばん近い問い合わせの窓口となる。だから私は、私の(所属する部署の)仕事ではないからといって、私に寄せられた問い合わせをなかったことにするのが、どうにも気持ちが悪い。それはつまり「我が家の都合」をあたかも世間の都合のように外へ持ち出すのが、恥ずかしくてしょうがないのだ。 



ユリコリーの移住エッセイ(Yuriko Korrie 著) 

 


だからこのマンガに出てくる、在ジョージア日本大使館の方の対応に、私は少なからず共感してしまう。お役所仕事だから、ただ「それは範疇の外だ」とだけ申し伝えることもできたはずなのに、つい自分で調べてしまう人。あれこれ添えた親切は非効率だと嗤われるかもしれないのに、自分が調べた方が速いからと、お客さんの効率を優先してしまう姿勢。そこに、この方の公務員としての矜持が垣間見える気がして、マンガの作者と同じく私もうれしくなる。そして日頃から、つい猜疑の目を向けがちなお役所に「悪くないな」という感情が吹き込んでくるのだ。 


自分の仕事でない仕事をできるだけやる仕事。そんな体験をした作者が思わずマンガにしたように、少しばかり親切な仕事はこの時代、存外に大きな力を秘めていると私は信じている。自分を鼓舞しつつ、信じているのだ。 

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