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ごとう隼平さんの作品:「月面ロック」/ chiku

こんにちは、マンガ制作研究組織「東京ネームタンク」のごとうです。


今回は、6月のコミチ漫画賞『#主人公のキャラ』に投稿されたネーム添削の第4回目です。


今回の作品はchikuさんの『月面ロック』。

こちらの作品は『山月記』がモチーフになっていますね!

それでは、作品を振り返っていきましょう。



月面ロック(chiku著)

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序盤でコレドナ感をだせば他人事にならない!

まず、今回の作品が『山月記』の習作だとすれば、しっかりと『山月記』から構造を学んでいきましょう。


物語づくりで大切なことは、最初の方(作品全体の1/4くらいまで)にコレドナ感(=これどうなっちゃうの感)を入れることです。

この作品のコレドナ感の描かれ方は、やや弱いかもしれまん。


「月からのノイズが止まらない」「友人が失踪してしまう」といった状況は、どちらも読者にとっては他人事となってしまい、このままでは読者の興味は引けません。


元の『山月記』はそこが上手にできています。

『山月記』は「語り手の友人である優秀な男が虎になってしまっている」という状況が早めに分かっていて、その虎になってしまった男と遭遇する、という話です。

何も知らなくても、これを聞いただけで「おお、どうなるんだ?」と興味を持てますよね。

これこそが『山月記』の"コレドナ感"なんです。

ポイントは男が虎の姿になっている序盤に、語り手のキャラクターがやってくる、という展開です。


2人が遭遇したあと、虎になった男は「今の姿を見せられない」と言い残し姿を消します。

これによって、読者に「理性を失いかけている親友に会ったんだ。これどうなるんだろう」と思わせられます。

この序盤に虎を出して再開させた"コレドナ感"こそが『山月記』の重要な構造です。


コレドナ感の位置以外の部分に関してはとても良く描けていると思います。

話の作り方も本当に上手です。

中盤後半は特に見応えがありましたし、最後のオチも秀逸で感動しました。


特に中盤で月に着いてからの「なんだ、何が起きてるんだ!?」という興味の引き方は非常によくできています。

もともと惹きつける力はありますので、物語のもっと序盤から「どうなっちゃうの!?」って思わせてほしいです。



目線をコントロールして興味を惹かせる

もう少し構造の話を続けます。


『山月記』の冒頭は、ある優れた男の話から始まります。

その後の展開としては、彼の人生がだんだんと上手くいかなくなってきて、最終的に彼は発狂してしまう、という流れです。


実は、そこに読者興味を惹くポイントがあります。

やはり、優れた男が発狂する様を読者は「見たい」と思うからです。


しかし、今回の『月面ロック』で、リチャードが発狂することに読者が興味を持ち続けるのはやや難しい作りになっています。

それは、語り手であるエイサンの冷静な視点からリチャードを眺めているからです。


語り手のエイサンが落ち着いていることで、友人のリチャードがいくら発狂していても、読者に響きにくいのです。

これが語り手のエイサンが発狂していたら、グッと興味を引きますよね。


『山月記』は、最初は「優秀な男」しか登場していないので、読者は「優秀な男」に興味を持たざるを得ない。

その状態で「優秀な男」がついに発狂するので、より読者は興味を惹かれます。


せっかくの「発狂」にいかに興味を持たせるか、というところがポイントです。



モノローグはキャラクターの目線に気をつける

次に、2P目の「少し照れるけど生まれて初めてのファンレターを君あてに書くよ…」というモノローグですが、男が真正面を向いて読者と目線を合わせてきているので、誰のモノローグなのか、ややわかりづらくなっています。


このように正面に対峙してしまうと、読者が男を見ている、つまり読者と男が分離してしまうんです。

結果的にこのモノローグは、男が発しているのか、読者が発しているのか判別しづらくなっています。


もう少し目線を外すだけでも変わってくるので、作中のモノローグはすべてこのヘルメットをかぶった男のものである、ということをわかりやすくしてください。



時系列を整理する

「少し照れるけど生まれて初めてのファンレターを君あてに書くよ…」という語り手の男のモノローグは現在形ですが、男が月に向かってノイズの原因を探りに行ったのは過去のことです。

このような構成は、最後まで読むと効果的ですが、最初の時点では読みにくさの原因になっています。


男が月に向かっているのは過去であり、さらにそこから過去の話を振り返っている、という流れだとすると、今は一体いつなのか、という情報が読者に伝わりづらくなってしまいます。


最初に伝えるべき情報のひとつである舞台には、そこがどこなのか、ということはもちろん、いつなのか、ということも含まれています。

モノローグと物語説明の部分をしっかり分けてあげるといいかもしれません。



***



独特の世界観で作家性も強く感じます。

ぜひ今回のアドバイスを活かして多くの人の心を揺さぶってほしいです。

引き続きがんばってくださいね!



最後に、東京ネームタンクでは、「漫画家の代表作を作る」というビジョンの元、「ネームできる講座」や「ネーム添削」などのサービスを提供しています。

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次回の作品も楽しみにしています!

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