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佐渡島 庸平(コルク代表)さんの作品:「つまらない」は観察眼を鍛える修行【自分の偏見メガネを把握する(1)】

「企画力を高めていくためにはどうしたらいいか?」

この問いに対し、編集者として多くの企画を生み出してきた佐渡島さんが導き出した答えのひとつが、「自分の偏見メガネを把握すること」だ。

今月の『企画のおすそ分け』では、4回にわたり、この偏見メガネについて掘り下げていく。

シリーズ初回は、「つまらないもの」への観察眼を高めることで、自身の偏見メガネを把握することができるということを伝えていく。偏見メガネをかけている自分を認識し、企画力向上への第一歩を踏み出そう。

* * *

誰もが偏見メガネをかけている

(以下、佐渡島さん)

企画を立てるときに認識しておくべきは、「人間誰しもが偏見メガネをかけている」ということです。

いかなる企画でも、必ず自分の心のフィルタを通して形作られます。

つまり、フィルタについての理解がおろそかになれば、自分にとってのおもしろさとその他大勢にとってのおもしろさが乖離してしまう可能性がある。結果、よい企画を生み出す精度が下がってしまいます。

とはいえ、自分のフィルタを理解するのは言葉でいうほど簡単なことではなりません。自己のフィルタへの理解が甘い人に出会うと、相対的に「まだ僕の方がマシだな」とは思いますが、客観的に捉えられているかというと自信は持てていませんでした。

自分の心のフィルタをどう理解するか。長らく悩み続けてたどり着いたのが、偏見メガネを把握するという方法でした。


自分を刺激的に感じるのは難しい

そもそもなぜ、自分の心のフィルタには気づきにくいのでしょうか。

それは、自分にとって自分があまりに当たり前の存在だからです。他の人にとっては興味深いものでも、自分にはつまらなく感じてしまう。例えば、自分の匂いは自分では気づきにくいですよね。でも他人の匂いは、「この人、いい香りがするな」などと嗅ぎ分けられる。

自分の匂いには慣れきって刺激がないから捉えることができないのです。自身のフィルタも同様。毎日触れているので、刺激がない。だから、自分のフィルタにどんな特徴があるのかに気づけない。

ついワイドショーを見てしまうように、自分にとって刺激があるものは頼まれてもいないのに注目してしまいます。しかし、刺激がない自分に注目することはほとんどない。

自身の偏見メガネを把握するためには、この「退屈な自分」を見つめる時間が必要になります。そのためには、つまらないものに集中し続ける忍耐力が不可欠。そこで僕は、つまらないことに集中するにはどうしたらいいかを真剣に考えるようになったのです。


つまらないことに集中し、観察眼を養う

つまらないことに遭遇したとき、どのように対処しますか。多くの人は、黙ってじっと耐えようとするのではないでしょうか。

スマートフォンをいじってやり過ごそうとするくらいならば、つまらない場を企画を練る修行の時間として捉えてみてはいかがでしょう。

例えば、退屈な講演を聴講していたとします。どうあがいても講演者の話はおもしろくなりません。

そこで発想を変えて、講演者の癖に注目し、「この人、やたらと“そーだね”と言うな」という発見をする。そこから、“そーだね”の回数を数え、どんなときに“そーだね”が飛び出すのかを分析し、さらには“そーだね”が飛び出したときの聴講者の反応を観察をする……。

イベントレポートというと、講演の内容が記事にされるものですが、癖に注目して「発見! 佐渡島の口癖レポート」というブログを書いたら案外おもしろがられるかもしれません。

コンテンツ制作に携わる人は、退屈なシーンは最強のコンテンツを作る修行の場だと捉えてみてはいかがでしょう。そして、「つまらなかったな」と思ったら、自分の観察眼がまだ足りなかったのだと思う癖をつける。

この鍛錬の積み重ねによって、つまらないと感じる自分自身へフォーカスを当てられるようになります。また、つまらないことからおもしろいことを紡げるようになるということは企画力の明らかな向上ともいえるでしょう。


三重にかけた偏見メガネを認識する

自身の偏見メガネに目を向けると、メガネのレンズは1枚ではないということに気づきます。多くの人は、偏見メガネのレンズが三重になっているのです。

偏見メガネの1枚目のレンズは自分の体調と感情です。2枚目は所属コミュニティの常識、そして3枚目が信念です。

僕は、偏見メガネを全て取っ払えといいたいのではありません。

自分の偏見メガネの存在を認識し、取り外しが可能な状態にしておけば、ターゲットにウケる企画が圧倒的に練りやすくなるということを伝えたいのです。

自分がサングラスをかけていることを自覚していれば、「ああ、だから暗いんだな。30%くらい明かりを補正しておこう」と考えることができますよね。フィルタを外し、物事の正確な把握ができるようになるのです。

偏見メガネの存在を認識すれば、企画の精度が上がり、他者とのコミュニケーションもずっとずっと楽になります。

これからシリーズ3回に渡り、私たちがかけている偏見メガネのレンズを1枚ずつ取り外し可能なものにしていきましょう。


聞き手・構成/佐藤智 @sato1119tomo &コルクラボライターチーム

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