ラリー元
帰途にて
コラム
シャープさん
13日前更新
シャープさんさんの作品:当たり前を、東京の外から眺める。

当たり前を、東京の外から眺める。

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あい変わらずわけのわからないこと言ってます。 @SHARP_JP です。上京のきっかけも、東京に暮らした経験もないけど、くるりの東京という歌が好きです。東京に縁がないとはいえ、私は出張や用事でひんぱんに東京へ行く。そして行くたびに思います。東京は人が多い。それなりに大都市とされる大阪に住む私ですら「なんだってこんなに」と思うほど、東京は人がひしめいている。



これだけ人が多いのだから無理もないことだけど、日本の中心は名実ともにずっと東京だ。現実社会もネットも、交わされる話題やニュースは「東京のこと」がデフォルト。そしてこれは、私と同じ非東京民の方は同意してくれると思うのですが、ツイッターで飛び交うイベント情報に、いかに都道府県が明記されないか。目についた告知ツイートを読む。日時と会場はわかった。とても魅力的なイベントだ。行きたい。だが非東京民にとってまずなによりも知りたいのは、それが東京の話なのか、そうでないかなのだ。



日本の住所表記は、都道府県・市町村・番地と、マップを拡大表示していくようにだんだんと狭くなる。いくら「東京が当たり前」だからといって、都道府県を省略するのはやめてほしい。特にライブハウスやクラブ、ギャラリーなど、名前に東京が冠されないような小さな会場の場合、われわれにとっては切実な問題なのです。イベントという機会そのものに飢えた非東京民の存在を、どうか忘れないで。



あるいは会社でも。私は仕事柄、売り込みの営業アポイントメントを日常的に受ける。「新しい動画広告の手法を説明したい、効果的な宣伝施策の提案をしたい、つきましては以下の日時に御社へお伺いしたい」といったメールや電話が、仕事中の私のもとへやってくる。いまから数日後を候補として挙げられた日時を見て、慣れた私は「当方、大阪ですが」と返信すると、きまってアポは流れる。一体いつから、私の職場が東京だと錯覚していたのか。



いくら通信手段、ネットやSNSが発達したといっても、われわれが場所や時間を飛び越えるにはまだ限界がある。どこでもドアはどこにもないのだ。画面越しにどこかの出来事をかんたんに視聴できるようになったとはいえ、行って会う、行って見るといった、時間と場所をリアルタイムに共有する機会は、お金の問題も含めて、東京と非東京の間に厳然たる格差がある。だからこそ東京は、多くの人に上京という憧れを駆動してきたのでしょう。




帰途にて(michi 著)



その憧れは、非東京民の思春期にいっそう、強烈に作用する。だから修学旅行の行き先が東京なんて日には、舞い上がってしまう。作者の世代か、原宿・クレープ・アルタのタモさんと、挙げられる東京ワードが若干古いけれど、今も昔も修学旅行生は憧れを抱えながら、せいいっぱい背伸びして東京を楽しむのだろう。



この作品では、帰りの飛行機が福岡へ高度を下げるにつれ、背伸びした彼女たちの姿が、文字どおり絵柄から愉快に崩壊してしまう。それはもちろん、生まれ育った親密な場所に帰ってきたという安堵のせいなのだけど、私には作画崩壊したそのダサい顔が、どこかやさしげにも見える。



地方と東京を語るとき、それはしばしば勝ち負けの話になりがちだ。特に私は大阪なので「東京に負けてないわれわれ」という自負はよく理解できる。だけどそれ以上に、私の中にはやわらかい芯のような、非東京民の視点があって、それは「私のいる場所が当たり前の場所ではない」という感覚だ。私の立つ場所は、社会の中心ではない。当たり前とされる場所は向こうにあり、ここは多数派が占める場所ではない。だからこそ私は、世界を少し多様に感じることができるのかもしれない。



大げさに言えば、地方の人は辺境にいるがゆえに、いつも中心が見えるのだ。当たり前とされる場所に立つ人は、その当たり前に無自覚なことが多い。なぜなら当たり前とは、当たり前としてこれ以上考慮をする必要のないことだから。それは常識が「そんなの常識だし」という理由で、がんこに常識であり続けることにどこか似ている。



結局当たり前はいつも、当たり前でない人によって、姿を与えられる。言い換えれば、当たり前でない場所にいる人こそ、当たり前を想像することができるのではないか。たとえその視線が憧れだったとしても、いまここにいない人や場所を想像できる能力は、それを思いやりと呼ぶにちがいない。だから私は、このマンガで最後に描かれるダサい高校生が、やさしい人に見えるのだ。

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