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佐渡島 庸平(コルク代表)さんの作品:そこに居る人たちの感情を、誰も描いたことのない場所を探せ!【ヒットは辺境から生まれる(2)】

常に時代をリードしていくヒット作品は、『辺境』から生まれるーー。


長年、編集者として様々な企画を考えるなかで、佐渡島さんが得たひとつの持論が、この考えです。


そこで、今月の『企画のおすそ分け』では、「ヒットは辺境から生まれる」をテーマに、4週連続で佐渡島さんに語っていただきます。


2週目となる今回のお題は「辺境の探し方」です。


***


物語としての辺境を常に探そう

(以下、佐渡島さん)


先週は、辺境にいる人々の感情を描いた作品がヒットとなる理由について説明しましたが、今回は「辺境の探し方」について話をしていきます。


辺境とは、社会の変化とともに移り変わります。この間まで辺境と思われていた場所が、時代の中心となることが往々にして起こります。


例えば、近年サウナが流行っていますが、数年前までは「サウナ好き」というとニッチな趣味として見なされていたと思います。


そこに現れたのが、マンガ『サ道』でした。


このマンガは、サウナ好きの感情を代弁しているような作品で、「温度の羽衣を身にまとう」「ニルヴァーナ状態になる」など、サウナで得られる快感を独特の表現で描いています。


サウナ好きから、「こんなに自分たちの感情をわかってくれる作品はない」と歓迎され、サウナを他人に薦める時に引き合いにだせれる作品となりました。現在のサウナブームの一端を担っている存在とも言えるでしょう。


作品を強く応援してくれる読者が存在するというのは、作品がヒットするうえで重要だと先週も伝えましたが、『サ道』はまさにその好事例です。


他にも、ワインの奥深さを描いたマンガ『神の雫』も、すごくヒットしましたよね。これも最初はワイン好きな人たちから歓迎されたことから火がついたと思います。


このように、熱量を持った人たちがマイノリティながらも一定数存在していて、その人たちの感情を描いた作品がまだないという状態


ここに、「物語としての辺境」が存在します。


こういう土地が眠っていないかどうかを常に考えるのは、企画力を高める上で大切です。


土地の面積の広さにも気を配ろう

一方で、辺境の土地を探すときに気をつけないといけないのが、その土地の面積です。


マイノリティといえども、人数が少なすぎると、作品として多くの人に届かない可能性が高いということです。


例えば、『宇宙兄弟』を描いている小山先生の初めての連載は、『ハルジャン』というスキージャンプの選手たちを描いたマンガです。


スキージャンプは、冬のオリンピックの花形種目にも関わらず、選手たちの感情を描いたマンガや小説はまだ存在しませんでした。


これはチャンスだと思い企画を立てましたが、その後で、スキージャンプの競技人口は予想以上に少ないことがわかりました。スキージャンプができる環境も限られているし、何より空中で大ジャンプをする種目なので勇気と凄まじい運動神経が求められるからです。


これは完全に僕の企画ミスでした。あまりにもマイノリティすぎると、作品として埋もれてしまう。


それで、『宇宙兄弟』では、宇宙飛行士という多くの人が就かない職業ではあるけど、スキージャンプ選手よりは圧倒的に人数が多く、宇宙関連事業に携わっている人たちからも歓迎される企画にしました。


マイノリティな人たちから歓迎される企画を立てる時のポイントとして、この面積の広さに気を配ることが大切です。


新しい土地では、物語の王道を描ける

最後に、新しい辺境の土地を見つけることの利点として、「物語の王道」を描くことができるということを伝えたいと思います。


例えば、物語の王道のひとつとして「バディもの」があります。


対立していた二人が、共通の困難に向かって立ち向い、その過程を通じてお互いを理解し合う姿を描く。これがいわゆるバディものです。


例えば、『スラムダンク』は、桜木と流川という正反対な性格のふたりのバディものとしても読めますよね。


ですから、バスケ漫画はもちろんのこと、学生のスポーツ漫画で桜木と流川のような関係を描くと、「なんだから、スラムダンクみたいだな…」となり、どうしても二番煎じな印象が拭えません


ですが、これが「学生起業」という土地だったら、どうでしょうか?


現在、大学生だけでなく、高校生までもが、在学中に起業して事業を立ち上げることが増えてきています。もちろん、まだまだ学生の中ではマイノリティな存在ですが、これからの社会を考えると着実にその数は増えていくはずです。


その学生起業した会社の中で、桜木と流川のような、対立する二人がわかり合う友情を描くとなると、新しさがそこには成立します。『スラムダンク』のマネのような印象を読者から持たれないはずです。


物語の王道を描く醍醐味は、多くの読者を惹きつける物語を描けることです。


人間の長い歴史のなかで、多くの人を魅了する「物語の型」は決まっているのです。


そのため、物語の王道の型を用いた作品で大ヒットを狙いたいという人は、まだ誰も王道を描いたことのない辺境の場所を探してみることをオススメします。


(翌週へ、続く)

聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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