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シャープさんさんの作品:人は変わる。私もあなたも着膨れしていく。

聞くところによればもう7月だそうで、@SHARP_JP です。この過ぎ行く時間の速さはいったいどういうことか。魔法か。あるいは詐欺か。もしくは加齢か。ここを読んでくださるみなさんの年齢など知る由もないですが、老いも若きも、少なからずなんらかの変遷を経て、現在のあなたに至っているかと思います。

変遷といってもさまざまです。進学や就職転職、結婚や出産といった、自分史を記述すれば典型的なピリオドとなりうる転機はもちろん、推しが変わった、新しい趣味に出会ってしまった、トラウマレベルの作品に遭遇したというような、生きる目的とか価値観が変わることも変遷でしょう。なにかを目指したり、なにかを諦めたり、夢や挫折に関わる出来事も、自分が変遷する契機として、だれもがカウントすることと思う。

みんな、自分のことをそっと振り返れば、すぐに自分のターニングポイントが思い浮かぶ。私だって、挫折と呼ぶと自己愛がつきまとうようで気恥ずかしいけど、なにかを目指して諦めたり、なにかに選ばれなくて離れてしまった経験はある。

自分の変遷だけでもこれほど思い当たるのだから、家族だって、友だちだって、変化する。とりわけしばらくぶりに会った時など、驚くほどの変貌を遂げていたりする。人は、変わるのだ。私とは別の場所で、変わるのだ。

そしてこれはきわめて現代的な現象だと思うのだけど、SNSに暮らす私たちは、いつのまにか友人知人の変遷がうっすら見えるようになってしまった。かつては道でばったりとか同窓会に出てみたらといった、その再開までに流れていたはずの、疎遠から空白にいたる時間が消え、旧友が変化する様子がFacebookやインスタから、あるいはツイートから、なんとなく目に入るようになった。

それは、結婚式に招待されるほどの間柄ではない友人知人たちの「子どもが産まれました」といった、素直にいいねを押せる人生の契機。一方で、かつて同じものを目指したり、似たジャンルで表現を共にした友人が、そこからフェードアウトしていく様子。あるいは自分の経験から「そちらはあまり見通しのよい場所じゃないぞ」と思える方へ、旧友が突き進む予感。それらがSNSの投稿の変化としてうっすら知覚される時、いいねでもなく、コメントするでもなく、私はただ眺めるままに、頭の中で「人は変わる」とつぶやきを繰り返す。その時の気持ちは寂しいというべきか、穏やかだけど底にひっそりうずまくものがある、なんとも言えない感情だ。

自己啓発セミナーに通っている友達へ(うえはらけいた 著)


その感情は、うえはらけいたさんの作品に流れるものと近いかもしれない。もっと言うと、旧友の変貌に直面した顛末をマンガにしようと思い立った時の作者の気持ちに近いのかも。すっかり変わってしまった友人に、逆にすっかり変わってしまったと幻滅される経験。会うことのなかった空白の期間の出来事は、お互い関知しえないことだし、友人が変わってしまうことは無理もないけど、それに直面した自分の無力さを痛感させられる。

だからなおさら、いったん友人との関係を空白の前まで巻き戻したいのだ。「あの頃、僕たちは無敵だった」と、お互いが胸を張って言える過去まで。お互いが影響しあった、関知しあった時間。だが巻き戻すのはとても難しい。友人の変貌具合もそうだし、なにより自分が「大人」の側へすっかり歩みを進めてしまっているのだ。開いてしまったその距離は、かんたんに詰めることはできない。

たぶん作者は、友人が通うようになった自己啓発セミナーの是非を問いたいわけではない。お互いの間にある埋めがたい距離に直面した時、自らがとれる行動の少なさに戸惑いながらも、同時に自分自身の変遷を実感したのだ。その実感は、大人になるにつれ、さまざまに獲得した世間体を重ね着する自分、として描かれる。

愛想笑いする用の衣装。会社員として真面目に勤めるふりをするコスプレ。しっかり者をぬかりなくアピールするためのコーデ。私たちは不器用だから、着替えるのではなく、重ね着してしまう。そして着膨れするばかりで、身動きがとれなくなるのだ。だからせめて着膨れする前の、Tシャツ1枚だった頃の旧友とは、お互いに重ね着を脱いだ状態で会いたい。そう願うのだけど、もう脱げない。そこに寂しさのような諦めのような、それでいて自らが選んで来た変遷への覚悟のような、なんともいえない宙ぶらりんな気持ち。それがリアリティをもって迫ってくる。過去の変遷の結果なんて、いつもすこし先の未来にあるはずだから、いまここで重ね着を脱ぐことなんてできないのだ。

私もずいぶん着膨れしてしまった。着痩せする大人に憧れるけど、そんな大人なんて、見たことがない。


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2019/9/17 コミチ オリジナル
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