コミチ公式さんの作品:【4・5章&おまけ】プロ漫画家が聞く!デジタル時代の「製版・超入門」後編

【4・5章&おまけ】プロ漫画家が聞く!デジタル時代の「製版・超入門」後編

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・4章 細い線をしっかり出すには

――冒頭の「理想の原稿」のお話で、「大きさは原寸」「解像度は600dpi以上、主線の太さは0.3mm以上」という条件がありました。ここについて、具体的に教えてもらいましょう。

Ken太郎 はい。理想をいうなら、最初から出版物とまったく同じ原寸サイズで描くことです。漫画雑誌の多くがB5サイズなので、昔からあるプロ用のB4原稿用紙、またはデジタルでB4を設定して描くと、実際は製版時に83%縮小されます。そこからさらに、文庫本になるときは65%の縮小がかかる。このため、あまり細い線は縮小するときに消えてしまうリスクがあるということを、念頭に置いていただければと思います。そうならないようにこちらでも解像度を押し上げていますが、原寸サイズに近い方が、縮小のリスクが減ります。また、主線が0.3mmというのは線が消えない目安になりますね。

ひうら 照れ線(恥じらっているときに頬に出る線)などで、0.3mmよりも細い線を使う場面があります。0.1mmとか……。少女漫画は特に多い。稚野先生も細いでしょう。


稚野
 髪の毛線とかは、相当細いペンで描いてます。こういうの、飛んじゃうんですか。


うめ小沢 アナログの丸ペン何mmというのと、デジタルの世界でいう0.3mmとは、考え方が全然違いますよね。デジタルだと、最終的にピクセルで考えるので。


Ken太郎 まさにその通りで、最終的に7ピクセルあれば、印刷でしっかり出ます。3ピクセルになると保証できないというのが、現場の感覚です。


稚野 それって結局、どう描けばいいんですか……?


Ken太郎 デジタルで描いて、絶対に細い線も最後まで残したい!という方は、原寸サイズ、解像度600dpi以上で画像データを作成し、ペンの太さが0.3mmあれば、縮小しても確実に線が出ると思ってください。ただ、それより下げると出なくなるというわけではありません。これは同じ環境で0.15mmにしたもの。すると4ピクセルになりますが、まだ出ています。実際は1ピクセルでも、インクの乗り次第で、出るときは出る。印刷の状況も関係するから、ピクセルだけで絶対に「出る・出ない」とは言い切れませんが、7ピクセルあれば心配ないということです。


<600dpi_line>


おかざき 私はまさに、デジタル原稿は600dpi、主線は0.3mm、モノクロ2階調で入稿しています。

Ken太郎 1つ知っておいていただきたいのは、作業環境を1200dpiに上げれば、細い線まで使えるようになること。実際、僕らは600dpiで来た原稿を1200dpiに押し上げて作業しているわけですから、細い線を使う方は最初からその環境で描けばスムーズにいくんじゃないかと……。



<1200dpi_line>


おかざき なるほど。私は線が細いと思われているんですが、書き込みが細かいだけで線自体は結構太い。だから今のところ、600dpiで描くのに特にストレスは感じていません。

うめ小沢 書き込みが多いと、黒い線に対して間の白い線がたくさん発生しますよね。そうすると、線の太さに関わらず、1200dpiのほうが印刷できれいに出るということはありませんか。

おかざき うーん。実際、どうして1200dpiで作業しないかというと、iPad Proだとすごく動きが重くなるからです。レイヤーを重ねたりする作業にいちいち時間がかかるので、正直1200dpiには上げたくないですね。

Ken太郎 そういう理由であれば、無理に1200dpiにする必要はまったくありません。実際、いま扱う原稿でいちばん多いのは、B4、600dpiの環境で入稿される原稿です。それを83%縮小し、僕らのほうで1200dpiに押し上げるやり方で問題はない。ですから、まず描くときのハンドリングの良さを重視していただき、もしご自身で細い線を作りたいと思えば、1200dpiの作業環境にする。それくらいの認識で構わないと思います。



4章まとめ

・原稿は印刷物に対して1:1の原寸に近いほど、線を再現しやすい

・解像度600dpi以上、ペンの太さが0.3mmあれば、線がかすれにくい

・版が変わるときの縮小率も意識しよう


・5章 結局、どういう入稿がいいの?

――そのほか、入稿時に迷うことはありますか。

上田 見開き原稿の作り方について、教えてください。見開きのページを描くとき、どこまでノドを取ればいいのか迷う人は多いと思います。最近は見開き自体が減ってきたと思いますが、それでも目立たせたい場面では使いますよね。これ、ずっと正解がわからなくて……。いっそのこと世界標準とかを決めてほしい!(笑)

Ken太郎 アナログ原稿では、ノドを取らずに1枚絵にして描いてもらうのが、いちばん動かしやすい。もちろん、片面ずつで入稿していただいても調整できますが。

おかざき それはデジタルも同じですか。漫画家さんによっては、見開きを横長の画面でくっつけて入稿する方がいますよね。それは、製版で片面ずつ切り離すんですか。

Ken太郎 版下を作るときは、切り離さないです。見開きのページを作って、偶数ページと奇数ページに同じ原稿を貼る。そこから少しずつずらして、ノドの位置などを調整します。

おかざき クリスタだと、一括書き出しをするときにどちらかを選ばなきゃいけない。編集の方から以前、「見開きと片ページを混在して入稿すると、印刷所が混乱するからやめてください」って言われたことがあります。

Ken太郎 編集さんが出力見本をつけてくれれば、解決しますね。あとは校了時に全体を確認するはずなので、ページの位置を間違えるというのはあまりないと思いますが……。

青木 クリスタの作業なら、見開きで描いて、片ページとして書きだす機能が便利ですよ。つなげて描いた原稿を、ちょうどノドの部分は隣と5mm分重なるように、片ページずつにしてくれるんです。

Ken太郎 へえ、これは便利ですね!ちゃんとノドまで考えてページを分けて出力してくれるのであれば、このやり方が製版的にもいいと思います。

うめ小沢 別の質問をさせてください。デジタル入稿の場合、セリフはどういうデータで入稿されるのが、製版にとってやりやすいですか。

Ken太郎 いちばん助かるのは、下絵とテキストデータをそれぞれいただけるパターン。ただ、セリフは手書きで届くこともあります。その場合は編集さんからフォントやQ数の指定があって、それを参照しながら僕らが入力する。

うめ小沢 手入力だと、どうしてもヒューマンエラーが発生しますよね。打ち間違いがあったらどうするんでしょう。

Ken太郎 それはさすがに、校了時に編集さんがチェックしてくれます。僕らが打ったセリフがそのまま印刷されるわけではありません。原稿がギリギリになる場合は、「ネーム先行」といって下絵だけが先に来ます。それでデータ作りを進めて、確定したらセリフを入れる。ただ、ネームからかなり変更が多い漫画家さんもいらっしゃるので……。そういうときは苦労しますね。

うめ小沢 最近僕は、特に広告の仕事の場合は、psdで入稿してセリフだけを変更可能な別レイヤーにして入稿しています。

青木 それはクリスタだとできないなあ。レイヤーを分けることはもちろんできるけど、「編集可能なもの」という分け方がないから。だから僕が入稿するときは、psdの画像とテキストデータ、あとセリフ付きの画像をjpegの小さい画像データでつけています。

K野 それで十分ですよ。Photoshopデータとテキストデータがあれば、レイヤーまで分けなくても作業できます。

――「理想の原稿」に出てきた、「塗り足し6mm以上」について、もう少し伺っておきたいです。

Ken太郎 そうですね。製版の現場からすると、塗り足しは重要です。主要雑誌掲載のあとにコミックス、文庫になるなど、印刷判型が変わった時に塗り足しがないと、不本意な拡大、現場でのトーンの書き足しなどが必要になってしまいます。これは作品に手を加えることになってしまうので、できればやりたくない。特に新書版になると結構判型が変わるので、足りない部分が出てきます。


<B4原稿と新書版>


Ken太郎 なので、出版される本の判型の塗り足し(どぶ、ミーリング幅)より6mm以上はほしい、というのが僕からのお願いです。ぜひ、トーンを多めに貼っておいてください!

おかざき でもそれは、トーンの大きさが物理的に足りなくて、貼れないことが多い。市販のトーンって、そんなに大きくないんです。1枚で塗り足し分ギリギリか、足りないくらいのときがありますね。

Ken太郎 なんと、そうなんですね……。今日はトーンを作っている会社にも、来てもらうべきでしたね(笑)。トーンをいっぱい継ぎ足してあって、「つなぎ目自然にしてください」とか書いてあるんですけど、それはさすがに無理です。できる範囲でいいので、足さずに1枚で、広めにトーンを貼っていただけると。あと、意外とみなさん知らないのは、入稿の際にトンボや作品情報が入っている原稿。それらは全部製版の段階で消してます……。実はノンブルも消してます。それは外すわけにいかないと思いますが、作品情報とかは、できれば書かずに入稿してほしいですね。

会場 なるほど〜。

おかざき 昔と違って、製版屋さんの仕事は増える一方ですか。

Ken太郎 そうですねえ。写真製版時代は写植屋さんがいましたけど、いまはほとんどが無くなってしまいました。その分の作業を誰がやっているかというと、僕ら製版なんです。最終的に文字のQ数が合っているかを見たり、セリフの校正もしたり、印刷前の責了以降の最終確認は製版が行います。

おかざき そんなことまで。製版の負担が増える一方ですね。入稿する出版社や編集部によって、作家サイドがネームを書き出したりおまかせだったり、バラつきもあります。出版社によってネームに対する決まり事もバラバラですね、改行とか句読点とか。

Ken太郎 僕の認識では、いまはデジタルへの移行のまさに過渡期で、それゆえの大変さがあるんだと思います。もっと時間が経てば、アプリケーションももっと使いやすく、人間的になっていくでしょう。それまでの間は、どうしても 複雑なこと、面倒なことが増えてしまう。そんな中、例えばアナログで原稿を描いている方にも、デジタルに移行したばかりの方にも、もっと技術周りのサポートがあるといいのかなあと思っています。

ちなみに、今日申し上げたやり方はすべて、あくまでも僕個人が感じている“理想”です。編集部や印刷所によってやり方が異なるので、まずはお仕事している先の入稿要項を確認してもらい、現場の方と一緒にいい方法を探っていただければと思います。

最後になりますが、漫画家さんのお仕事はあくまで、面白い漫画を描くことです。そうやってできた原稿がきちんと印刷に反映されるように、僕たちは日々がんばっています。ぜひ、そんな製版のプロセスも知っていただき、業界全体で作品のクオリティーを上げていければと思います。そのためにも、今回のように漫画家と間に入る編集者、製版、印刷それぞれの現場が、コミュニケーションをとっていくべきだなあと改めて認識しました。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。


5章まとめ

・見開きは1枚絵で描いていい

・塗り足しは6mm以上あれば、判型が変わっても絵が足りなくなりにくい

・セリフは絵と別にテキストデータで入稿が理想



・付録 漫画製版Q&A

Q:コマ枠線からはみ出して主線を描きたいとき、デジタルでの設定はどうすればいいですか?

A:クリスタの場合は、「コマ枠フォルダ」というのがあります。その中にレイヤーが入っていると、マスクが効いてコマ枠の外に主線がはみ出ない。だから最初からはみ出したくないという人は、このフォルダにレイヤーを入れるといいです。欄外にコメントを入れたり、のびのびと絵を描きたい人は、このフォルダを使わずに描き、あとで消すといいでしょう。ちなみに、コマ枠自体を消したいときは、枠線をラスタライズしてベクターにする。そうすると、絵がはみ出した部分の枠線だけを消すことができます。


Q:ラスターとベクターの違いがどうしてもわかりません。

A:画面で見たとき、ラスターとベクターの線はほとんど見た目が変わりません。しかし、2つの線はそもそもの成り立ちが違って、ラスターはピクセル(点)の集まりで構成されていて、ベクターは1本1本の線を計算式で表しています。青木俊直さんいわく、「ラスターは砂に指で絵を描く。ベクターは紐で絵を描く」イメージです。

おそらくデジタル画面で馴染みがあるのは、ラスターでしょう。複雑なグラデーションを表すことができ、色を塗る際に便利です。しかしピクセルの集合なので、拡大すると画像が劣化します。修正の際は、消しゴムで該当部分をゴシゴシこする細かい作業が必要です。

一方、ベクターは紐のようなものなので、線全体を消すとか、重なっているところだけを消すといった、指定範囲を一気に消す作業に向いています。Illustratorを使ったことがある人は、その線を思い浮かべるとわかると思います。ただしベクターは、線としての編集能力は高いが、色を塗れません。ベクターで作った線の中に色を塗りたい場合は、レイヤーを重ねてラスターの階層を作り、そこで塗りましょう。


Q:漫画制作ソフトの主流である「クリスタ」と「コミスタ」は、どういう違いがあるのですか。

A:どちらも、セルシスという会社が作っているソフトです。コミスタは2015年に販売が終了され、現在はクリスタが主流ですが、まだ移行していない方も多いでしょう。新しくなった「クリスタ」では、先ほどの質問であったベクター線が、ペンだけでなくブラシで使えるようになっています。また、本文にも出てきたグレースケールと網点化の切り替えがボタン1つで素早くできるようになりました。「印刷用」「電子書籍用」という原稿が作りやすくなったので、ぜひ今回出てきた話を参考に活用してください。

こうしたソフトを使う際、基本的なことですが気をつけたいのが、初期設定を覚えておくこと。漫画家さんは重いデータを扱うので、パソコンが落ちるといったトラブルもあるでしょう。そのとき、ソフトをインストールし直して初期設定が崩れると、描いていた原稿のデータがめちゃくちゃになってしまいます(実際、Ken太郎さんはそういう相談を受けたことがあるそうです)。「そんなこと」と思わず、きちんと初期設定をメモしておきましょう。


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