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コミチ公式さんの作品:【3章】プロ漫画家が聞く!デジタル時代の「製版・超入門」

【3章】プロ漫画家が聞く!デジタル時代の「製版・超入門」

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・3章 アナログ原稿って、滅びますか?

上田 あの、突然なんですが……。アナログ原稿って、滅びますか?

会場 (笑)

上田 いえ、真剣な問題なんです。私は未だにすべての原稿を手描きです。デジタルに移行する方がいいかな?と思いながらも、実際は断然アナログの方が早い。しかも日々、原稿を描くスピードを更新しているんです。

会場 おお〜!

稚野 私も、いま漫画業界で4%以下と言われているフルアナログの1人です(笑)。次の一歩を踏み出したいとは思っていて、iPad Proを買ったんですけど……(と、箱を取り出す)。今日初めて、段ボールから出して持ってきました。

会場 (笑)

上田 大手出版社のアプリで漫画を連載しているんですが、アナログで描いているのは私だけ。技術もスピードも上がってきているけれど、作業される方にとってはアナログって邪魔になっていくのかなあ、とつくづく考えてしまいます。私自身はアナログを捨てる気はないのですが、将来、デジタルの作画を誰かに頼むとか、そういう可能性も考えておくべきでしょうか。

Ken太郎 個人的な意見ですが、アナログ原稿が滅ぶってことはないと思います。ただし、困ることがあるとしたら、専用の設備を揃えた会社が少ないということです。代表的なのが、スキャナー。僕が仕事先で使っているスキャナーは200万円くらいするもので、相当精度が高い。最近はデジタル入稿が増えて、スキャナーを必要とするものが減っているんです。だから業務用のスキャナーはなかなか安くならない。さらに、製版には高価なRIPも必要。そうなると、昔よりアナログ原稿を入稿するための設備をそろえるのが大変なわけです。

上田 やっぱり、滅ぶんじゃないですか……?

Ken太郎 大丈夫だと思います(笑)。ただ、確かにアナログをデータに変換する手間とコストは、デジタルよりも大きい。それを知っていただくのはいいことだと思います。せっかくなので、アナログ原稿をどうやってデータ化しているか、お見せしましょうか。まずはこうやって原稿1枚1枚に、ずれないように貼ってはがせるテープを貼ってスキャンします。


<スキャン動画からキャプチャ>


Ken太郎 アナログ原稿は、スキャンした時点で二値のデータになります。さらにここから、データをモニタ上で拡大表示してゴミを見つけ、取り除く作業に入ります。僕たちは表面のゴミだけじゃなくて、トーンを貼ったときに生じる、原稿とトーンの間のゴミも取っています。時々、トーンを絨毯の上に落としたかな?と思うくらい、埃がすごいことがあります。こういうゴミ取りは大変なので、トーンを床に落とさないように気をつけていただきたいです(笑)。

あと、ホワイト(修正)を重ねると、その場所が盛り上がって影ができる。これは消さなきゃいけないので、ゴミ取りのときにはまずホワイトの場所を探しますね。こうやってデータを整えていき、アナログ原稿の場合、デジタルデータに仕上げるのが通常のやり方です。

稚野アシスタント 昔、ホワイトの上にトーンを貼ると影ができるから、やらない方がいいと言われたことがあります。最近は時々やっても影になってないと思っていたんですが、もしかしてあれは……。

Ken太郎 おそらく、製版時に消しているんでしょう。露光をめちゃくちゃ上げてホワイトが飛ぶようにして、トーンを残した状態で一旦スキャンする。そのコマだけをもう一度露光を変えてスキャンし、切り貼りすると影が消えます。その過程でトーンが消えることはないですが、線が少し細くなっているかもしれません。まあまあ、大変な作業です。

おかざき それにしても、上田先生の原稿、なんて美しい。

<上田先生のアナログ原稿>


Ken太郎 アナログ原稿の良さって背景ですよね。細かい描き込みに、作家さんの熱量が表れています。

上田 ぜひ、畳の線を見てください(笑)。

おかざき 私も背景とか、細かい描写をペンで描き込むのが大好き。できるだけ早くネームを仕上げて、作画の時間をじっくり取りたいといつも思います。

Ken太郎 上田先生の原稿は、基本枠がはっきりしているので、デジタルに変換するときに中心を合わせやすい。紙幅に対して、どこが基本枠かが曖昧な原稿は、結構困ります。デジタルの場合も同じで、基本枠の位置をしっかり示してほしい。いちばん助かるのは、入稿時に1枚、原稿に基本枠だけを入れたガイドラインをつけてもらえることです。ほかの原稿にそのガイドラインを当てはめて作業すればいいので、僕たちは迷わなくて済む。ちょっとしたことですが、気をつけていただけると作業がスムーズになります。

また、線が太くしっかりしていると、スキャンする際のしきい値を上げやすい。しきい値を上げるとよりクリアに原稿を読み取れ、かつゴミや鉛筆の下書きなどを拾いにくい。もちろん作風にもよりますが、これも製版時に作業しやすい原稿といえます。


<おかざき先生のアナログ原稿>


Ken太郎 おかざき先生の原稿も見てみましょう。ここでは、アシスタントさんへの指示に水色ペンを使っていますね。これは、2値化のときに飛ばせる色なので助かります。困るのは、藍色のペン。時々、使う方がいるんですが、藍色ペンって実は曲者なんです。なぜなら、2値化したデータにはっきり写るから、僕らが消す作業をしなきゃいけない。昔、写真製版の時代はカメラで青い線が飛ばせて、いまもその名残で指示に藍色ペンを使う方がいらっしゃるんですが、正直、画像を拡大して1つ1つの線を消すのが大変です。ぜひみなさん、指示出しは藍色ペンではなく、淡い水色のペンで弱い筆力で書いてください。それだけのことで、製版の仕事が1つ減ります! そうだ、ついでにこれも聞きましょう。アナログのみなさん、「白いグラデーショントーン」って、使いますか?

会場 (ちらほら手が上がる)

Ken太郎 いや、もちろん表現手段の1つですから、「使わないでください」なんて言いません。ただ、あのトーンは下の絵柄が写り込むんです。スキャンすると、はっきりと。だから、これをデータ化するのは、薄墨の上のトーンを処理するのと同じくらい大変なんですよね……。

なかはら 原稿用紙で描いて失敗したときに、切り貼りして修正する場合もあると思うんですが。そういうツギハギの原稿って、製版屋さんからすると「ふざけんな!」って感じですか?

Ken太郎 いや、そこまで思いませんよ。ただ、「立体漫画が来た」と……。

なかはら (笑)

うめ小沢 原稿用紙1枚って0.2〜0.3mmってとこかな。それが重ってどんどん厚くなる。

Ken太郎 大変なのは、スキャンですね。重なった部分が影にならないよう、角度を工夫したり。

おかざき 私、「立体漫画」作っちゃったことある! ネームから原稿を大幅に変えたら、左右のページが逆になっちゃったんです。それを切り貼りしているときに、寝ぼけて間違ったのでもう1回やり直して。最終的にできた原稿をコンコンってそろえたら、いつもの倍くらいの厚みになってた。

うめ小沢 途中で寝ぼけたのが、罪作りだなあ(笑)。

おかざき あのときは悪いことしちゃった。そういえば末次先生は、早い段階から作画にPhotoshopを導入していましたよね。その後、どうされていますか。

末次 実はそのころから、まったく変わっていなくて。一時はデジタルを増やそうと思っていたんですけど、『ちはやふる』で原画展をやることになって。そっちを優先していたら、デジタルに移行する時間がなくなってしまったんです。アナログで原画を描く作業と、デジタルとでは、使う能力やアプローチの仕方が全然違う。原画はやり直しがきかないから、頭の中でどういう構図にするかを組み立ててから描くし、どうしても時間と集中力が必要です。そういう感覚は、デジタルにないですね。

おかざき 着物の柄を描くのも、大変でしょう。

末次 ちまちまと描くのは、時間があれば楽しい。やっぱり原画があるのはいいなと思っていて、どんどんデジタルが後回しになっています。

Ken太郎 原画、いいですよね。僕も好きです。個人的には、アナログ原稿が届くのはうれしいです。製版の仕事で「漫画を作っている」という実感が湧くのは、アナログの方ですから。アナログとデジタル、どちらの良さも、きちんと引き出せればと思っています。

上田 ありがとうございます!



3章まとめ

・トーンを貼るときのゴミに注意しよう

・アシスタントへの指示は「藍色」でなく「水色」のペンで!

・デジタル原稿は「基本枠」がわかるように、ガイドラインを1枚つけよう

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