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シャープさんさんの作品:典型的なアルバイトに、いまでも憧れる。かっこいい先輩の話。

新しい生活がはじまり、どうにか5月をやり過ごせそうなみなさん、調子はどうだい?うまくやってるかい? @SHARP_JP はこうさ、どうにもならんよ、いまんとこはまあ、そんな感じなんだ。

別にコンプレックスというほど劣等感を抱えているわけではないけど、他人と比べて「いまさらもう勝てないな」と思うことのひとつに、バイト経験の浅さがある。浅さといっても、バイト歴が短いわけではなく、ひとつのバイトを長く続けがちだったせいで、経験したバイトのバリエーションが少ないのだ。

バイトに勤しんだ時期はとうの昔に過ぎ去ってしまったけど、コンビニとかファーストフードとか、バイトという語からすぐに連想されるような、映画やドラマでバイトのシーンとして描かれるような、典型的なアルバイトを経験しておきたかったな、と振り返ることがあります。

私が長く続けていたのは家庭教師と、小学校の体育館で椅子や備品の収納に使うような、つくりが大雑把な家具を雑に製作するというバイトで、どちらも「職場に仲間がいない」ことが共通する。家庭教師はいわずもがな、教え子とのマンツーマンな時間だし、雑な家具作りは老夫婦が雇い主としているばかりで、私は黙々と広いベニヤ板に木工ボンドをぞんざいに塗り、プレス機にかけるだけだった。

つまり私は、アルバイト募集のページで目にする「楽しい職場です」とキャプションがつく写真のような、先輩も後輩も、あるいは店長も、みんな笑顔を見せて集合するような経験を経ることなく、会社員になってしまった。

そしていまだって私は、黙々とパソコンに向かい、雑にツイートへ文字を塗り込めているわけで、その仕事には先輩も後輩もなく、写真を撮ろうにも集合するメンバーもいない。だから私はずっと少し、経験できなかったアルバイトに憧れ続けているのかもしれない。

「アルバイト」(仲曽良ハミ 著)


バイトの話です。デリバリーのピザ店のバイトですから、まさに私が経験しなかった、仲間のいるバイトだ。しかもここには、かっこよくてやさしい先輩が登場する。

作者の姉でもある、ピザ店の先輩は「青春よりもお金を信じる」リアリストであり、現場への負荷を度外視した「Lピザを頼むとMピザ1枚無料」という企業の目論見を「数を売らないと儲からない事が高校生にもわかる鬼キャンペーン」と喝破する批評眼を持つ。

新人の不慣れな作業もさりげなくカバーしつつ、ガミガミうるさいリーダーには厳しい牽制をきかせる。後輩のミスにもあわてない。失敗したピザをつまみ食う豪胆さを見せるとともに、その場を落ちつかせる。常に現場を俯瞰して見回し、オーダー順とトッピングの采配でミスの挽回法を見出す。惚れ惚れするほどかっこいい先輩だ。ほんとうにこんな先輩いるのだろうか。仲間のいないバイトに明け暮れた私は、なかば憧れにも似た感情を抱いてしまう。

正直に言えば、バイトから卒業し会社員になっても、こんな惚れ惚れするような先輩に、少なくとも私は巡り合ったことがない。ましてや私が、こんな先輩になれるとはとうてい思えない。しかし一方、この姉はどんな場所でもかっこいい先輩になれるのだろう。

リアリストでありフェアであること。やさしくて落ち着いていること。俯瞰的で自ら判断できること。並べてみればもう、仕事ができる人の条件そのものだ。チームプレーの経験なし、先輩経験も後輩経験もなし。なにもかもの経験が浅い私には、はるか遠い境地である。

だから私は、スナックのママになりたい。このマンガの最後に出てくるママのことだ。配達の遅れを詫びにきたバイトへ、酔った客の注文だから気にするなと言う彼女のように、せめて人のミスにはやさしくありたい。ましてやバイトに励む若者のせいいっぱいに、不寛容にだけはなりたくない。よき先輩にもよき後輩にもなれそうにない浅い私はせめて、そこだけは死守して大人になりたいと思うのだった。

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2019/9/17 コミチ オリジナル
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