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シャープさんさんの作品:難しいことをわかりやすく言うこと。どうにかして伝えること。

10連休越しにこんにちは @SHARP_JP ですが、GWを横目に舌打ちしてしまう気持ちも忘れないようにしたい。連休・祝日にまるで無関係に働く人がいるように、世界は残酷なまでに多様な仕事と多様な生活がある。だからこそ、かろうじて社会は成立しているのだけど、その多様さをリアルに想像するのはなかなか難しい。そして想像が難しいことを、自分と同じ場所や立場にいる人に理解してもらうことはもっと難しいと、最近よく思います。想像できないことはそもそも自分と関係ないことも多いわけで、理解されない、伝わらないのも無理ない気もするのだけど。


だからなのか、世の中には「難しいことをわかりやすく言う」仕事があります。ワイドショーなんかのコメンテーターと呼ばれる人もそうでしょう。またニュースを取材する記者さんも。私みたいに、宣伝や広告を考える仕事の人も、企業の難しい言い分をわかりやすく伝える職種だと言える。


たとえば家電の機能なんて、そのまま言えば難しいことばかりです。試しにテレビの高画質の仕組みについて、宣伝文句を自社サイトからコピペしてみます。


“フルハイビジョン(2K)の16倍、約3,300万画素のきめ細かな映像を再現。さらに超高精細パネルを倍速120Hzで高速に駆動させることで、秒間120枚の圧倒的情報量を持った驚異的な映像が楽しめます。”

“大容量の8K映像を倍速120Hzでリアルタイム処理できる高速演算性能で8K映像はもちろん、地上デジタル放送(2K)やブルーレイディスク(2Kまたは4K:UHD BD)など様々なコンテンツを8K高解像度映像にアップコンバート(高精細化)して再現します。”


読まなくていいですよ。なに言ってるかわからないですし。私ですらぜんぶわかるとは言い難い。もちろんここでは、テレビの画質に並々ならぬ関心があり、映像の仕組みに精通した人には「ほほう…」と思ってもらえることを確かに述べています。


ですがもし、そのテレビの仕組みに自信があって、なおかつ1人でも多くの人にその良さを想像してほしいと願うなら、難しいことをわかりやすく言う努力は、われわれ、作って売る側にあるはずだ。言えば伝わる、広告が権力を持った時代はとっくに終わったし、いまや想像と共感なしに「私と関係あることかも」と、お客さんが宣伝のスタートラインに立ってくれることなど、もう金輪際起こらないのだ。


それがSNSの時代における、広告の地獄なのだと思います。だから少なくとも、放っておいたら難しくなることをわかりやすく伝える努力を、私のような人間は放棄してはいけない。


ガイネン君(小山コータロー 著)

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そこでこの作品です。シュールな顔をしつつも「難しいことをわかりやすく伝える」が達成されていて、私は驚きました。お題は、マネックス証券の「貸株」というサービス。見慣れないワードだし、株なんて漢字が付いた日には「私には無縁」と即断されそうな、ハードルの高い広告ブツだ。


マンガを読んだ方はおわかりでしょうが、この作品の芯の部分は「ひたすら貸株というサービス」をまるでパンフレットのように、淡々と説明しているだけです。文字だけ追えば、取説を一から順に読まされる苦行とさほど変わらない。


だがここで発明されているのは「難しいことをどう言い換えるか」ではなく、「難しいことをだれがどう語るか」だ。語るのは、難しいという印象と事実だけを抽出したような、ガイネン君。概念だから抽象的だ。ただのグルグルした線だ。そしてそのガイネン君の語りを、適宜ツッコミを入れながら聞く青年。難しいことの得体の知れなさも、難しいことを聞かされる億劫さも、そもそも頼んでもいないのに難しいことを一方的に述べ立てられる広告の異常ささえ、青年は遠慮なくツッコむ。


そのバカバカしいほど率直な構造のおかげで、難しいことがするすると頭の中に入ってくる。わかりやすく伝えるのは、なにも子供じみた平易な言い方にすり替えるだけが方法ではない。だれが難しいことを語り、どう話を回すかということも、わかりやすく伝えるためにじゅうぶん機能するのだ。


小山コータローさん、これひょっとしたら、広告界のすごい発明かもしれませんよ。

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