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佐渡島 庸平(コルク代表)さんの作品:4次元から2次元に落とし込む!マンガ表現とは何なんなのか?【リアリティを生み出す①】

リアリティを、いかに作品に吹き込んでいくか?


フィクションの創作に携わる人であれば、リアリティの追求は永遠のテーマなのではないでしょうか?


佐渡島さんも、リアリティの重要性をこう語ります。


「リアリティが乏しいと、作品へのツッコミどころが多くなってしまい、物語の世界に没入することを妨げてしまう。読者を作品に惹きつけるためにも、作者はリアリティをどう生み出すかを常に意識しないといけない」


そこで、今月の『企画のおすそ分け』では、「リアリティに生み出す」をテーマに話をしていきます。


1週目となる今回は、「マンガにおけるリアリティとは何か?」です。


***


3次元のものを、2次元に落とし込めるか?

(以下、佐渡島さん)

近年、『pixiv』などのイラスト投稿サービスの盛り上がりにより、キャラクターのイラストを描くことが上手な人が増えています。


しかし、そういう人が、マンガのキャラクターも上手く描けるかというと、そうではないことが多いんです。


実は、『pixiv』などでキャラクターのイラストが上手くなる人の多くは、自分の好きな絵師(イラストレーター)のイラストのトレースを繰り返しながら技術を磨いています。要は、止まっている2次元のキャラクターを見ながら、2次元の絵を描く練習をしているわけです。


一方、マンガの場合、キャラクターの個性や人柄が、絵から読者に伝わるように描かなければなりません


顔の作り、表情の動き、姿勢、身振り手振り、細かな仕草。そういった様々な要素が絡み合って、読者はそのキャラクターがどういう人物なのかを推測します。


そのため、漫画家はそのキャラクターが生きて動いている姿を頭の中で想像しながら、絵に落としていく必要があります。つまり、3次元のものを2次元に落としこむ技術が求められるのです。


これは漫画家だけに限らず、優れたイラストレーターや画家であれば、同様でしょう。描く対象の表面的な造形だけでなく、その内面まで踏まえて、対象の持つ個性が伝わるように描いていると思います。


言うなれば、3次元から2次元に落とし込む技術を持っていることが、リアリティのあるキャラクターを描く条件だと言えます。


僕が新人賞などの審査員をする時に、真っ先に見るのもここです。これは一コマ見るだけでわかります。


そのため、僕は新人漫画家には、日常で出会った印象的な人のスケッチをすることを勧めています(Twitterで「#スケッチブックス」で検索すると、みんなが描いたスケッチがでてきます)。3次元を2次元に落とし込む良いトレーニングになるからです。


この3次元を2次元に落としむ絵の表現については、来週詳しく話します。


マンガとは、一品料理ではなくコース料理だ

更に、マンガに求められる大きな要素として、時間軸があげられます。


マンガとは、何かしらの出来事や物語を読者に伝えるものです。そして、読者の関心を引くために面白く伝えないといけません。


例えば、友人に好きな映画について話すとき、印象的だったシーンは時間をかけてじっくり話す反面、何事でもないようなシーンは省略して話しますよね。マンガで伝える時も一緒で、どこをじっくり伝えて、どこは省略するのか。それが作者に問われます。


そして、どういう順番で伝えるかも大切です。時系列順に話した方がいいのか、結果を先に伝えてから経緯を話した方がいいのか。工夫次第で面白さが全く変わります。


料理に例えるなら、マンガはコース料理に似ています。どういう料理を、どの順番で提供すると、お客さんの舌を最大限に楽しませることができるのか? 一品ずつの質が高くても、同じような料理が続くと飽きてしまうし、うまいバランスを見つけるのがシェフの腕の見せ所です。


漫画家もコース料理のシェフのように、読者を作品に惹きつけるために、どの順番で、何を、どれくらいのバランスで描くのかを考え抜かなければなりません。


しかし、どんなシェフでも、新人時代からいきなりコース料理を担当することはないでしょう。まずは、一品ずつの料理の腕を高めることから始めていくはずです。同様に新人漫画家であれば、いきなり長いスパンの物語を描くのではなく、些細なことでもよいので、短いスパンを面白く伝えるトレーニングを徹底的にするべきだと思います。


僕が新人漫画家に、日々の出来事を1、2ページのエッセイ漫画にすることを勧めているのも、そのためです。『君たちはどう生きるか』の羽賀翔一さんにも、まずは徹底して毎日の出来事をマンガにしてもらっていました。




このように、3次元を2次元の絵に落とし、伝わりやすいように時間軸を作者が意図的に演出するのがマンガ表現です。いわば3次元に時間軸を加えた4次元を2次元に落とし込む技法がマンガなのです。


そして、4次元を2次元に変換する際に、表現に違和感が入ってしまうことが往々にして起こります


僕は、それがリアリティが失われる瞬間だと思うのです。


今月は、マンガにリアリティを損なわないために何が大切なのかを話していきます。

(翌週へ、続く)


聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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