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佐渡島 庸平(コルク代表)さんの作品:本当に優れたアイデアというのは、型にハマっているのに気づかない。【物語設定の“型”を理解する①】

どうやったら、オリジナリティのある企画を考えられるようになれるのか…?


漫画家はもちろん、企画に関わる多くの人が持つ悩みではないでしょうか。


この問いに対して、佐渡島さんは、型破りなオリジナリティを生み出すためには、定番の型を深く理解することが大切だと言います。


「いきなりゼロから新しいものを生み出そうとしても大抵うまくいかない。そもそも“型破り”というのは、読んで字の如く、型を破ること。型を抑えていない人は、永遠に型は破れない」


物語には、様々な定番の型があります。バディもの(相棒もの)、タイムスリップもの、サスペンスもの、成長もの、ロードムービーもの、ファンタジーもの。


そこで、今月の『企画のおすそ分け』では、「物語設定の定番の型を深く理解する」をテーマに、幾つかの型をピックアップし、それぞれの型への理解を深めていきます。


1週目となる今回は、「型を理解することの大切さ」と、定番の型のひとつである「バディもの」についてお届けします。


***


物語の魅力を大きく左右するものとは?


(以下、佐渡島さん)


今月のテーマは「物語設定の定番の型を深く理解する」です。


僕は新人漫画家を育ているときに、「世の中にある素晴らしいマンガや映画にどんどん触れて、そこから学ぼう」とよく話します。


その際に、特に意識して見て欲しいのは物語設定の型なんです。


設定には幾つか定番の型があります。バディもの、タイムスリップもの、サスペンスもの。様々な作品を見ることで、「今回の物語は、この型を使っているな」と見分けることができるようになります。


同時に、型についての理解を深めていくと、物語の魅力を大きく左右するポイントは、登場するキャラクターやエピソード次第ということもわかってくるはずです。


物語を創作するという長い歴史の中で、「こういう設定にすると、人間の心は動きやすい」という定番の型は既に出来上がっています。新人のうちはベタでもいいから定番の型を使い、キャラクターやエピソードを磨くことに時間をかけたほうがいいと僕は思います。


なぜかというと、キャラクターやエピソードは、他の作品を絶対に真似してはいけない部分だからです。ここを真似すると作品から個性が失われます。自分の体験や過去の感情など、作家の経験の中から生まれたキャラクターこそが、その作家らしいキャラクターになるからです。


定番の型の上に、オリジナリティのあるキャラクターやエピソードを重ねていく。そうすることで、型破りと呼ばれる作品に仕上がっていくのだと思います。


そのために、物語設定の定番の型を深く理解するということは、とても大切なのです。


***


関係をどう深めていくのかは、誰しもが知りたいこと。


(佐渡島さん)


理解を深めたい、ひとつ目の定番の型は「バディもの(相棒もの)」です。


教える側と教えられる側のふたりを中心に物語が進行します。困難に立ち向かう中で、ふたりの関係が時には逆転。そして最後は友情で固く結ばれる。これがよくあるバディもののパターンです。


刑事やスポーツ選手といった職業設定。大きな年齢差や真反対の性格といった条件設定。様々なバディのバリエーションがあり、多くの人に親しまれている物語の型がバディものです。


最初はバラバラだったふたりが、最後はアイコンタクトだけでお互いの意思疎通ができる間柄となる。そんな姿を見て、どこか羨ましいと思ってしまう。おそらく、「心が通じ合える親友が欲しい」ということが、人類共通の欲望なのでしょう。


「相手との関係値をどういう風に深めていくのか?」というのは、常に人間が関心を持つテーマです。バディものという型を使いつつ、ふたりの関係をどういう風に深めていくのかの演出により、作品にオリジナリティが生まれます


例えば、宇宙兄弟はムッタとヒビトのバディものですが、ムッタとケンジのバディの要素も含まれています。


ケンジは、初めて会った相手の年齢を当てるのが得意で、当てた相手と握手をする習慣を持っています。ムッタとも、それがキッカケで仲良くなり、ふたりは会えば必ず握手をするようになります。読者は、はじめは握手に特に意味を感じないと思います。ですが、ふたりの関係にとって最大の困難が訪れるエピソードにおいて、握手がふたりの友情を表す象徴的な意味を帯びるシーンが描かれます。それまでの関係を見てきた読者からすると、心が震える演出だったはずです。


相棒ものというと、似たようなものばかりなのではないかと思う人は、『月刊モーニングtwo』の創刊号を手に入れてみると勉強になるかもしれません。なぜなら、編集長が「創刊号に掲載するマンガは、全てバディものにして欲しい」と、漫画家にお願いしたからです。


その中の作品の一つが、『聖☆おにいさん』です。


作者の中村光さんは、バディものというお題を与えられた中で、キリストとブッダの共同生活という企画を考え出しました。『聖☆おにいさん』を読んで、これがバディものだと気づく人は、なかなかいないかもしれません。


でも、本当に優れたアイデアというのは、完全に型にはまっているのに、それに触れた人が型にはまっているのに気づかない。だから、聖おにいさんは型通りとも言えるし、型破りとも言えると思っています。


クリエイターとして、こういった作品を生み出すことを目指していきたいですよね。


(翌週へ、続く)


 聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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