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佐渡島 庸平(コルク代表)さんの作品:“目に見えない抽象概念”をどう表現するかで、独特の読み応えが作れる!【他メディア展開から、企画の強度を磨く①】

マンガ家や編集者といったエンタメ業界に止まらず、現在あらゆる仕事において、人をワクワクさせる『企画力』というものが求められています。


「世の中にオドロキや感動を届けたい…!」


そう意気込みながらも、なかなかナイスなアイデアが浮かばない…。そんな、あなたにオススメしたいのが、この連載企画「佐渡島庸平 presents 企画のおすそ分け」


コルク代表で編集者の佐渡島庸平さんが、長年温めてきた大ヒットを狙えるかもしれないマンガの企画を紹介しながら、アイデアを練る際の考え方も同時に伝授していきます。


「なるほど…。ヒットする企画というのは、こういう風に考えればいいのか。」


そんな風に、企画力を高めるヒントをここから持ち帰ってもらえたら嬉しく思います!


さて、2月は、0から1を生み出す企画の立て方ではなく、1を10にするための企画の磨き方について話をしていきます。


ずばり、テーマは『他メディア展開から、企画の強度を磨く』です。


今週はテーマの説明と、他メディア展開における「小説」についてお届けします。


・・・


他メディアでの展開を考えると、アイデアが磨かれる


佐渡島:今月の企画は『他メディア展開から、企画の強度を磨く』です。


アイデアは思いついたんだけど、それを膨らませることが、なかなか難しい…。こんな相談をもらうことがよくあります。


確かに、面白いマンガのネタを思いついたとしても、「どういう主人公にして、どういう舞台設定にして、どういう展開をしていくと面白さが増していくのか?」と、企画を磨いていかないとヒットするマンガにはなりません。


そんな時、僕は他メディア展開を考えることで、アイデアを膨らませます。


「このマンガを映画化したら、どんな俳優が、主人公を演じるんだろう…?」


「ゲーム化するとしたら、どんなジャンルのゲームになるんだろう…?」


「キャラクターグッズを作るとしたら、どういうグッズ展開が良いのだろう…?」


このように考えてくと、演じてもらいたい俳優に合わせて主人公の顔や雰囲気を寄せてみたり、グッズ化しやすいようにキャラクターを追加したりと、アイデアがどんどん膨らみ、強度の高い企画に磨かれていきます。


そして、これはビジネスの企画においても同様だと思います。


「この企画でレストランやテーマパークとコラボレーションしたら、どうなるんだろう?」


「この企画をWeb上で体験してもらうとしたら、どういう形がいいんだろう?」


「この企画でグッズを作るとしたら、どういうものが喜ばれるんだろう?」


様々な場所での展開や、違う職種の人とのコラボレーションについて考えてみると、アイデアが叩かれて強い企画になっていくはずです。


今月の『企画のおすそ分け』では、ヒットするマンガの企画を磨くために、あえてマンガ以外のメディアについて考えることでアイデアを膨らます方法を、メディアごとに考えていきたいと思います。


・・・


小説で描かれている抽象概念をマンガで伝えてみる


佐渡島:さて、今月1回目となる今週は「小説」について考えてみます。


マンガから小説に展開するノベライズはよくありますが、今回は小説からマンガに展開するという逆転の発想から、マンガのアイデアを磨くということを考えてみたいと思います。


小説の一番の魅力とは、何でしょうか?


それは、目に見えない抽象概念を伝えやすいということです。


愛とは何か?なぜ人は生きるのか?


そういう抽象的なテーマを真正面から捉えて描くことができるのが小説の醍醐味です。


数年前に、遠藤周作の小説『沈黙』が映画になりました。この作品で描かれている人間と人間の対立のエピソードは映像化され、映画として成り立っています。ただ、遠藤周作が問いかけていた「神とは何か?」というテーマに対して、映画を観終わった後に自分なりの考えを深めようとするとなかなか難しいのではないでしょうか。一方、『沈黙』の小説を読み終わった後では、読みながら思考が徐々に深まっているので、自分の考えを整理することができます。


つまり、映画は世界観をリアルに受け取れますが、小説だと思考を深めることができる。これが小説の最大の魅力なのではないでしょうか。


青春小説の多くは、主人公の頭の中の考えがグルグルと書き連ねてあります。青春小説と呼ばれる作品には、そういうものが多く存在します。『若きウェルテムの悩み』や『人間失格』『風の歌を聴け』のような青春小説を、単純に心の声をネームにして、マンガで表現しようとすると、物語展開が何も起こらず、つまらない作品に仕上がってしまうでしょう。主人公は何もしないし、ずっと考えているだけなので、「ウジウジしてる奴だなぁ…」と読者に思われて終わりってしまう可能性もあります。


マンガは、映画と小説の両方の良さをバランスよく取り入れることが可能だと思っています。映画のようなリアリティを絵で保ちながら、小説ような抽象概念も、一定量なら伝えることができる。


例えば、安野モヨコの作品をみると、抽象概念をうまくマンガで表現していると思います。『鼻下長紳士回顧録』などは、特にそうです。真っ白や真っ黒の背景の中に抽象概念だけが浮かび上がっているというコマ運びがすごく上手い。だから、作品に触れると、文学作品を読んでいるような不思議なテイストをいつも感じることができ、独特の読み応えのある作品に仕上がっています。





変態という概念を、映画でセリフとして誰かが読み上げたとしても、抽象度が高くすぎて、頭になかなか入ってこないと思います。小説だと、もっと抽象的な描写が長くなるでしょう。


だから、マンガ家を目指している人は、好きな小説を見つけたら、その小説のあらすじをマンガで表現することを考えるのではなく、こう考えてみてください。


「この小説が描いている目に見えない抽象概念を、自分だったらどういう風にマンガで表現するか?」


「どういう風に表現すると、小説以上にその抽象概念が伝わるか?」


これを実践していくことで、独特の雰囲気があって、オリジナルな読み応えのあるマンガ家になれると僕は思います。是非、試してみてください。



聞き手・構成/井手桂司 @kei4ide &コルクラボライターチーム

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