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シャープさんさんの作品:日曜日の背徳めし

食べ物の話題といえば、世間話の定番だ。初対面の人と交わす会話にもうってつけだろう。その時々でおいしいと思うモノの話を交換したり、目の前に置かれた料理をおいしいおいしいと言い合うことは、いたって平和な時間だ。だれも傷つけないから、食べ物の話は世間話にふさわしい。


だからといって、食べ物の会話がぜったいに平穏に終わるかと言われると、そうとも言い切れない。好きな食べ物を述べあうだけでも、ごくまれに深刻な論争や悪印象を招くことがある。たとえば、お好み焼きとご飯をいっしょに食べるかとか、冷麺にマヨネーズは必要かとか。生まれ育った場所に基づく食べ物の話は原理主義に陥りやすいゆえ、言い争いになるかもしれない。あるいは、どこそこの店がよい、あそこのあれを食したことがあるといったグルメ方向の話題。どこそこやあそこがおいそれとは払えない金額の店だった場合、無用な妬みや疎外感を相手に与えるおそれがある。


つまり「おいしい話」も最大公約数のゾーンを考えねば、世間話として採用が許されないのだ。ローカル性に振れば排他的に、高級を志向すれば階層を暗示してしまう。分断の世に生きるわれわれは、世間話すら共通の話題を探らねばならない。困ったことに。


では現代人のだれにとっても、おいしいの共通基盤となりえるゾーンはどこか。それを知るためには、われわれは上に向けがちな目線をあえて下に向ける必要がある。


焼きそば。ピザトースト。1ポンドステーキ。チーズINオムライス。冷やし茶漬け。ベーコンカマンベール。ナポリタン。焼鳥缶カレー。ハンバーガーとシェイク。温玉からあげ丼。ミートスパ。梅茶漬け。フレンチトースト。


読むだけでおいしそうだ。あなたも同感だろう。そしてこれらの食べ物には共通項があることに、だれもがうすうす気づくのではないか。そう、背徳感だ。食べた後に「なりふりかまわずやってしまった」という、満足と後悔が渾然一体に湧き上がるアレ。背徳感こそ、食べ物の最大公約数ゾーンである。



あの「明日の自分を裏切って」「今日の自分を優先させた」感覚が、この『日曜の背徳めし』には延々と描かれている。週にただ1回、日曜の昼にだけ訪れる食欲の自由時間に、おじさんが自炊するマンガだ。ただそれだけなのだけど、あなたは読み進めるたびに、おじさんの背徳感への陶酔にリンクする自分を発見するだろう。そしてその日のあなたの献立が、おのずと決まるはずだ。


漫画はレシピブックとしても読むことができる。おじさんが嬉々として独り言をつぶやきつつ、料理の工程を説明してくれるので、料理をしたことがない人にも案外便利なのではないか。ついでに言うと、スマホで読む用に縦スクに変換されているから、手順を見ながら作るというニーズにも適しているように思う。


それにしても背徳感とはなんて豊かな感情か。甘くて苦くて、そして後ろめたい。背徳感があなたと私の「おいしい」の最大公約数にあるのなら、それを語ることこそ、相手への親密さの証にちがいない。相手と仲良くなるための会話に、これほどふさわしい話題はないだろう。


私は、仇のようにケチャップを塗りたくり、こぼれんばかりにチーズを載せたピザトーストが好きだ。あなたの背徳はなんだろうか。

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