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トケイさんの作品:やさしい家電を届けてくれた人へ

先日、おこめを炊いた話を漫画にしました。
そしてありがたいことにシャープさんのコラム内で触れていただきました。

めったにないことです。本当にありがとうございます!


●シャープさんのコラム→【<やさしい家電>byシャープさん

●私の漫画はこっち→【<久しぶりにおこめを炊きました>


今回この日記を書こうと思ったのは、紛れもなく素晴らしいコラムを読んで胸が震えたからにほかなりません。どうしても何かに書き留めたいと思いました。


この漫画に登場する落ち込んでいる時は本当に出口の見えない中にいました。

親元を離れ就職して1年、社会は自分が思っていたよりも理不尽で窮屈で苦しかった。

日々ただひたすらに擦れていく日常の中、そのうちLINEの返信すら億劫になった。
友人や家族とのトーク画面は向こうから送られる一方的な「おはよう」「大丈夫?」「無理しないで」で埋め尽くされていく。対する私は未読無視も既読無視もお手の物。

それでもさすがに何か返さねばと思うものの、「うん」と返信するのが精いっぱい。

段々と心配の声すら煩わしくなって、煩わしく思うことに苦しみを覚えて。相当周りの人を心配させたと思います。


心配した両親は「おいしいもの食べてのんびりしなさい」と言ってくれました。
でもね、わかってるんですそんなこと。

だから毎日コンビニやスーパーで好きなものおいしいもの買って食べてるんです。
好きな物ばかり買いこんで、節約とは程遠い買い物を毎日のようにして、おいしいものを食べてる。

なのになぜかどうしても楽になれないんだよ。どうしてだよ、わかんないよ。


自分の限界が来たことをなんとなく知り、3日会社を休みました。
膝を抱えてぼんやりとしながら、会社を辞めることを決意しました。

ご飯を炊くことができたのは、それから間もなくでした。


お米を測り、流水で研ぎ、水を測り入れ、炊飯ボタンを押す。

さっきまでほこりをかぶっていた炊飯器が、ぐつぐつと音を鳴らして蒸気を出し始めて。
炊ける前の独特なお米のにおいが部屋に漂ってきて。まだかなと表示を見たらあと2分。そわそわと待っていると、炊けたことを知らせるアラームが鳴って。

久しぶりにお茶碗と箸を用意しました。卵と醤油も机の上に並べて。

ふたを開けて湯気が熱くていいにおいがして。

しゃもじでご飯をすくって盛り付けて。

机の上に並べて手を合わせていただきますと言って。

ほっかほかの炊き立てのご飯を口に含んだ。

おいしい。


おいしいもの、を初めて理解したようだった。


以下はシャープさんのコラムの引用です。

その無情な転がりに、どこかそっと歯止めを効かせるモノ。機能とも呼べず、効能ともいえず、だけどふと束の間の落ち着きを取り戻せる存在。そういう深呼吸のように作用する家電が、幸いにして私たちの生活にはまだある。その微かな希望をもたらす家電を、私はやさしい家電と呼びたいのだ。
そしてそんなやさしい家電を、まだかろうじて世に送り出しているメーカーがあることに、私はささやかながら希望と誇りを見出している。やさしいからこそ、ウケる家電になりえるのだ。


あったかいごはんなら、コンビニでも十分においしいものが手に入る。
でも、私が救われたのは味そのもののことではない。

おこめが炊けるまでのその過程。はかり、研ぎ、炊き、盛り、食べ、喜びを得る。
私は炊飯器という存在に、過程を楽しむ余裕を教えてもらっていたのだ。


喋らず話さず「お疲れ様」の一言もかけてくれない我が家の炊飯器。


でも、いてくれてありがとう。

やさしい家電を届けてくれた人へ感謝を込めて

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2020/8/7 #コラム
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