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シャープさんさんの作品:強い食べ物

だいたいなんでも食べる、@SHARP_JP です。だれでも好きな食材と嫌いな食材があると思う。これだったらいくらでも食べられる。これが入っていたらぜったいに食べられない。食べ物の好き嫌いなら、相手の主義信条や価値観に踏み込むことなく、平和に意見を戦わすことができるので、世間話としても話題にしやすいテーマだろう。


一方、好き嫌いとは別に、食材には強い弱いがあると、私はかねてより考えている。強い弱いではわかりにくいかもしれない。食材には厳然たるヒエラルキーがあると、言いたいのだ。


それを所有しているという事実によって、私が他人と一線を画すことができる食べ物。それを人に供することによって、私が圧倒的にマウンティングを取ることができる食べ物。かんたんに言えば高価な食材がそれに当たるのだろうけど、宝石やブランド物の洋服のように、食べ物だって、値段を超えたところでの希少さや美しさを持つことはある。つまりは、みんなが羨むような食材だ。


たとえば私はいま、冷蔵庫にけっこうな量のさくらんぼを潜ませている。さくらんぼといえば初夏の貨幣といっても差し支えないわけで、私は一時的にせよ、財をなしたも同然なのだ。貰い物だが。あるいはメロン。複雑な模様をまとったマスクメロンなんかを、客人に出したり、友人への手土産にした日には、瞬く間に上下関係が生じるだろう。ヒエラルキー上位にある食材は、いともたやすく人間を変える。


もしあなたの家に、生ハムの原木があればどうか。熟成したチーズが棚に並んでいればどうか。名前しか知らない酒や輝くマンゴーがあればどうか。あなたは強い。仲良くしてほしい。どこかの企業の重役だと名刺を差し出されても、ふーんとしか思わない私だが、おいしくて貴重な食べ物をちらつかされると躊躇なくひれ伏してしまうのだ。



夏ときゅうり(まるいがんも 著)

だから「メロン買っていくよ」なんてメッセージされたら。このマンガの彼のように、私だって「メロン様」とぶつぶつ呟きながら恋人の帰りを待つだろう。結果はメロンではなく、スイカですらなく、キュウリだった。言うまでもなくキュウリとメロンでは、強さに歴然とした差がある。瓜科のヒエラルキーだ。


しかしその肩透かし具合が夏の夜の気怠さにマッチして、なんかいい。マウンティングを取る必要もなく、まったりとした恋人の間柄には、強い食材などお呼びでないのかもしれない。うちわ片手に窓際でキュウリをポリポリかじっていると小さな花火が見える。なんてキュウリがふさわしいシーンだろうか。


つまりはまあ、いよいよ夏がはじまりますね。今年の夏はどれくらい暑くなるのだろう。

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