主人公の名前は「遠野 篤(とおの あつし)」
愛犬の名前は「アサリ」柴犬のメスである。
■何を求めている主人公が
直接的な願望でいえば、「もう一度アサリに会いたい」である。
しかし、なぜ会いたいのかというと、愛犬のアサリに対して強い後悔がある。
誰かが出かけようとする時、玄関まで必死に追いかけてきて
吠えまくるアサリ。
いつも目にしていたのは、散歩に行きたがるアサリの姿。
そして、本当に寂しそうな瞳をしているのである。
自分のことで忙しくて、アサリのことはつい後回しになってしまっていた。
ほとんどの世話を母親がしていたが、母もまた忙しい人で、毎日仕事で帰ってくると疲れて散歩に出かける体力は残っていない。
僕がアサリと散歩に行く頻度は、「痩せよう!」と思い立って運動をし始める頻度とほぼ同じである。
そんなだから、いつの間にかやめてしまっていて、気づくと3ヶ月、半年と経って
前に散歩に行ったのはいつだっけ?と思い出せないほどだった。
僕が散歩をしなくても、家族の誰かが連れていくが、それも多くて月に2回程度。
運動しないとストレスの溜まるのが犬という生き物なのに、その状況はある意味で地獄だったのかもしれない。
そんな事に、死んでいなくなるまで気づかないなんて。
全く意図してたわけじゃないが、無自覚に僕たちはアサリのことを
四角いオリの中に閉じ込めて、飼い殺してしまったんじゃないかと怖くなった。
ひとつだけ知りたいことがある。
「彼女自身が、僕らの家族でいて幸せだったのか。」
それが知りたい。
だが、もう知る術はない。
主人公の穴は「彼女を幸せにできなかった後悔」
具体的な行動で言えば、充分に散歩に連れて行けなかったことへの後悔。
抽象化すると向き合っていなかった時間の長さ。
自信を持って、家族として向き合えたかどうかが不安な気持ち。
■どんな答えを得るのか
人間の姿を借りて主人公の目の前に現れたアサリ。
そして、アサリの本音を聞く事に。
正体がバレると二度と再会することはできないと言う。
正確に言うと、生きている人間は次の日に全て忘れてしまうと言う。
「だから私だけは覚えているけど、あなたは次の日には全て忘れてしまっている」
と言う。
本来、生者と死者は同一世界線の生き物ではないので、認識もすることが稀である。
それを繋ぐ橋がひとつだけある。
それが「虹の橋」と呼ばれるものである。
アサリは最後に告げる。
「今は先へ進んで。大丈夫、虹の橋でずっと待ってるから」
※ ※ ※
翌日、篤は会社で仕事をしているのだが、
上司に呼ばれ新規プロジェクトへの参画を打診される。
不意にやらない理由が口をついて出そうになる。不安や恐れの感情が湧き起こる。
なぜか、一瞬アサリ(柴犬)のイメージが頭をよぎる。
次の瞬間、涙が一粒こぼれ落ちる。
「やります。もう、後悔したくないので」
上司を、泣くほどのことじゃないだろうと慌てさせつつ、頑張りますと鼓舞する篤。
ビルの屋上で、アサリ(人間)とアサリ(柴犬)が向きあって立っている。
「もういいの?」
「ええ、もう大丈夫」
「本当は毎日地獄だったんでしょう?」
「……そうでもなかったわよ」
「嘘つき。じゃあ、虹の橋まで送るね」
「ありがとう」
「あいつが死んだら会えるといいね」
「ええ」
「じゃ、元気で」
終わり
主人公が得る答えは
「後悔先に立たず。後悔しないで済むように今を大事に生きる」
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