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シャープさんさんの作品:ひとつずつしかこなせない仕事

いま在宅? @SHARP_JPです。私はデスク。会社の。みんながみんな、不安でたいへんな日々を過ごしている。


思えばこれほどまでに、医療従事者が注目を浴びることはなかったのではないか。注目というと言葉がぬるいかもしれない。世界中の医療の現場で働く人は、かつてないほどの圧を、その身に感じられているはずだ。特に感染者がいらっしゃるエリアの医療従事者は物理的に膨大な仕事量に立ち向かおうとされていて、ほんとうに頭が下がる。


いま医療に従事される方が感じられる圧とは、目の前に現れる、助けが必要な人の期待と要望に応えなければいけないという職業意識だけではないと思う。このピンチをなんとかしてほしい、最後に頼りになるのはあなたたちだという、人々の願いまでをも一身に浴びられているのだろう。それは目に見えない世間の声なき声として、巨大なプレッシャーが医療に従事される方の背中に重くのしかかる。


重い空気が自分にじっとりと押し寄せてくる感じ。会社の経営が数年にわたり悪化する中、会社のツイッター役として世間の窓口でありつづけた私にはなんとなくわかる。自分の働く会社の動向がニュースを賑わすたびに投げつけられるお叱りの声とは別に、名前も内容も判別できない、感情の塊とでもいうような世論が、その巨大さゆえに質量をともなう瞬間。それはまるで、目に見えない世間の空気を気圧として知覚するような、息詰まる時間だった。


状況はもはや自分ひとりではどうしようもないレベルなのだけど、目の前には自分が対処しなければいけない事物が積み上がり、おろおろと絶望しながらも自分を奮い立たせる日々。たかが一企業のピンチに立ち会った私ですらこうなのだから、ウイルスという、私たちにあまねくふりかかるピンチに向き合う医療従事者のご苦労とプレッシャーは、想像するに余りある。



わたしのスタートライン(コジママユコ 著)


だからいま、こういうマンガを読むと、よりいっそう声援を送りたくなるのだ。医療マンガ大賞というテーマは昨年実施されたものであり、いわば医療をめぐる世界が平時であった時に描かれた作品ばかり。だからこそ、医療に従事される方のひたむきさが、よりいっそう尊いものに思えてくる。


それにしても医療や医療にまつわる仕事とは、効率とは無縁の、ほんとうに手間のかかるものだと痛感する。この作品で描かれるように、患者さんはすべて個別の存在。そのひとりひとりと、ひとつずつ向き合うのが、医療なのだ。仮に同じ病気、同じ症例の人が並ぼうとも、対処はひとりずつ行わざるをえない。


それはあるニーズを把握し、そのニーズを解消する製品を一度に大量生産し、いっせいに流通させるメーカーのような仕事でも、ひとつのメッセージをテレビやネットを使って、拡声器のように多くの人へ同時に伝える広告のような仕事でもない。むしろ対極にある、地道な作業だ。


たぶん医療と医療にまつわる仕事の過酷さはここにあるのだろう。対象となるべき相手は潜在的にほぼすべての人であるはずなのに、医療という行為はひとりずつしかこなすことができない。こなすべきタスクはほぼ無限にありながら、一度にたくさん処理することが本質的に不可能な仕事。ターゲットも属性も切り分けることはできず、同時に複数アプローチすることができない現場。どんなにツールや設備が整おうとも、ひとりがひとりずつ向き合うことでしか、問題は解決できないのだ。


それは時として、途方もない量の課題が遅々として進まないように、われわれの目には映る。だがせめてそのジリジリした感情が言外の圧として、医療に従事する人へのしかかるようなことは、私たちも望まないはずだ。いつかみんなでほっとできる時間が来ることを願っています。どうかご無事で。ご自身の身体にも気を配る余裕がありますように。

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