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シャープさんさんの作品:あれはいったいなんだったのか

とりたてて語るべきこともない学生でした、@SHARP_JPです。たとえば酒席で、ある程度年齢を経た男性が語る昔話は「オレの不良自慢」として受け取られがちで、だから私はじぶんの中学や高校の話をするのをあまり好みません。若かりし頃のエピソードが、私にそのつもりがないのに「昔はオレも悪かった」という解釈をされてしまうのは、逆説的に「昔はオレも悪かったと思われたい人」がいかに多いかを証明しているのではないか。


昔は悪かったと思われることが、その人にとっていったいどういうメリットがあるのか、私にはいまいちよくわからない。昔は悪かったのに今はこんなにいい人という印象を獲得したいなら、その目論見はわからなくもないけど、それにしたって昔も今もいい人の方がいいに決まっているだろう。もちろん、どこか危険なイメージを背負った人に、私だって言い知れぬ魅力を感じることはある。だけど危険なイメージを背負った人が、自分の危険さを自ら語るところを私は見たことがない。昔は悪かったと思われたいなら、少なくとも本人以外から、そのエピソードを語ってもらわないと。説得力は伝聞で伝わってこそ、その効力を増す。


だからいまからここで私が語ることは、決して不良自慢ではないことをご承知いただきたいのですが、私はよく学校をサボるタイプの学生だった。私がサボる背景には、体制への反発といった青い衝動も、スクールカーストからの逃避といった暗い衝動もなく、どちらかというと、ひとりが楽しいとか、わざわざ苦手な場に出かけることこともないだろうといった、弱々しい理由しかなかった。なんとも覇気がない若者である。


とにかく私は学校という場所で、ふわふわした気持ちのまま、ぼんやり過ごしていたわけだ。だから授業に関する思い出も、私にはほとんどない。ぼんやりしたまま着席していた私は、思い出もまたぼんやりしたままだ。もちろん今になって思い返すと、そのぼんやりした態度は、実にもったいなかったと後悔する。



世界地図〜最後の授業〜(いぬパパ著)



なぜなら、私がぼんやり授業を通過していた間にも、このマンガに描かれるような、教師が渾身の思いを生徒に放っていたことがきっとあったはずと思うからだ。作者のいぬパパさんが最後に結んでいるように、これからの人生の指針となるようなメッセージに、私も触れるチャンスがあったはずだ。


幸い、といっていいのかわからないけど、私はそのような人生の指針となるような物事や考え方に、学校の外や書物の中で出会った。もちろんそれは私にとってかけがえのないものだけど、このマンガを読んでしまった今、生身の教師が目の前で「これだけは伝えたい」と、ただひとつ差し出したメッセージが、まだ何者でもない若者にとって、強烈な力を持っていたであろうことは、私にも想像がつく。


英語の先生が語った「世界は多様であり、物事を多様な視点で見ることができれば、未来は柔軟に素敵になる」というメッセージ。膨大な英語の知識を伝えるその先生は、実のところ伝えたかったことはひとつだったのだろう。私たちは生きる上で試験をパスする能力も必要だけど、それ以上に大切な、未来に有用な知恵と信念があった先生だからこそ、ひとつだけ忘れられない授業がある、と作者に記憶されたのだ。


そういえば私にも、ひとつだけ忘れられない授業があった。ふだんは寡黙な、書道だったか漢文だったかの先生が、とつぜん昔語りをはじめた時があったのだ。その内容が「私はパチンコなら負けたことがない」というもので、あれはいったいなんだったのか。パチンコができる年齢に満たない私の前で語られたパチンコ必勝法。先生は、未来に有用な知恵を伝えたかったのかもしれない。だが私はいまだにパチンコをしたことがない。あれはいったいなんだったのか。


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