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シャープさんさんの作品:天才は遍在する。

ないものをねだり続ける人生、@SHARP_JP です。誰しもとまでは言わないけれど、たいていの人は「もしも自分が天才だったら」と、他力本願に祈ったことがあるでしょう。私もある。もう少しだけ身長が高かったら、せめてあとちょっとイケメンだったら、あるいはもっと財布に金があったらといった、他愛もない願いと同じように、自分が天才だったらと、カジュアルに祈ってしまうことはよくある。もちろんどの願いも、叶ったことはない。いきなり天才にしてくれなんて、土台無理な話だ。


さらに最近は天才を希求する祈りに、インターネットが追い打ちをかける。YouTubeで、ツイッターで、インスタで、ありとあらゆる分野に天才の存在を見かけない日はない。超人的におもしろい動画、思わずうならされる鋭いツイート。素敵なテキストや写真。はたまた、彼我のスキル差を残酷に突きつけるうますぎる絵。きのうも、きょうも、たぶんあしたも、私たちはどこかの天才にスマホ越しに打ちのめされるのだろう。だれもが表現を発信することができるようになった素晴らしい時代の、これはある意味、残酷な側面なのかもしれない。


かつて天才は、ごく一部、ごく少数の人間しかなれないと思われていた。レアであるからこそ、その存在を天才たらしめていたと言ってもよい。だからこそ自分が天才でないことも、確率的に当然なのだと理由づけることもできたし、しぶしぶ納得することだってできた。それがどうだ。いまやわれわれの日常には、天才がごろごろ転がっている。天才はどこにでもいるのだ。インターネットやスマホによって、天才が容易に発見されるようになり、天才は思ったよりたくさん存在することが明らかになった。だから次に、ひょっとしたら自分に天才の番が回ってくるかもと、ほのかな予感を抱いてしまうのも無理はない。


もちろんそんな予感は、当たりはしない。私は天才になれるわけがない。みんなうすうす気づいていると思うけど、天才はキャッシュレス決済のポイントみたく運よくあなたへ付与されるわけではないのだ。実際の天才は、その対象に捧げた自分の時間と引き換えに、自分で手に入れるものだからだ。



自分、天才だと思ってました。全7話(やじま けんじ 著)

連載作品を一挙公開!















私は「武器はたゆまぬ工夫」と連呼する、ライムスターのK.U.F.Uという曲が好きなのですが、中でも「そうかおれは天才じゃないんだ 逆におれにゃ限界がないんだ」というパートを、座右のリリックとしていつも自分の心に刻んでいる。そしてこの曲で吐露されていることは、やじまさんが自身を回想したマンガとほとんど同じだ。


この作品は、マンガの天才だと思っていた主人公が自尊心を抱きながら挫折し、紆余曲折の中で触れた経験を経て、なにかを成し遂げようとする人生には「やってきた今」と「やってない今」の分岐しかないことに思い至る。だからこそ、努力と覚悟を決めさえすれば、無限にはじめられることが描かれる。全7話、みなさんもゆっくり読んでほしい。


それにしてもわれわれは、天才を語る時も、天才でないことを語る時も、往々にして「天才なんてない」という地点へ行き着く。結局のところ天才とは、それを努力と呼ぼうが、趣味と呼ぼうが、毎日自分が一心に注いだ膨大な時間の先にのみある、周囲が天才としか評せない境地のことを言うのだろう。やってきた今とやってない今。運命づけられたものでもなく、ある日ひょいと拾うものでもなく、ただただやり続けた先で、事後的に「天才は天才になる」しかないのなら、それは残酷であると同時に、私はなかなか夢のあることだと思ったりもする。


天才は存外、公平なものなのだ。

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