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シャープさんさんの作品:制約と偏見とゾンビ

映画JOKERを観ました。@SHARP_JP です。唐突に宣言しますが、私はゾンビが好きだ。もとよりホラー映画は好きだけど、ゾンビは別格。とはいえ「ゾンビが好き」と宣うと、次にこいつはゾンビのグロさや死生観について熱弁をふるったり、訊いてもないのにゾンビ後の世界をいかにサバイブするかを解説しそうだと、たいていは引かれる。ゾンビはあっという間に感染するけど、ゾンビが好きという気持ちは感染らない。つくづく陰キャな嗜好だ。


ただ私は、そういうゾンビの恐怖とか残酷さ、あるいは終末思想と困難に立ち向かうヒロイズムといった、ゾンビ映画やドラマで描かれるテーマとは別のところで、ゾンビへの愛を深めてきた。うまく言えないが、私はゾンビという物語の枠組みを愛しているのだ。


ゾンビにはルールがある。私なりにルールを列記すると、ゾンビは弱い・ゾンビは群れる・ゾンビに噛まれると感染る、この3つだ。


ご承知のとおり、ご承知でない人はイメージしてほしいのですが、そもそもゾンビ1体1体はとても弱い。1体ならば、子どもでも女性でも、ナードな脇役でもなんとか渡り合える。ヨタヨタ歩き、その食欲とは裏腹の緩慢な動作は、ゾンビの典型的な様子だ。だがゾンビは必ず、圧倒的な群をなす。そのモブが押し寄せる状況が、われわれに危機をもたらすのだ。危機とは死へのシグナルだけでない。噛まれれば自分もゾンビになってしまう危機が迫るのである。弱いものが群をなした時の恐怖、その群れに自分も取り込まれる恐怖、その2重のホラー(と皮肉)がゾンビの真骨頂だと、私は思うわけです。


そして現在、ゾンビにまつわる映画やドラマは無数にある。すべてを観ることが不可能な数だ。ジョージ・A・ロメロが「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」を作ったのが1968年だから、およそ半世紀にわたって、ゾンビの登場する映画が脈々と生み出されてきたわけだ。たったひとつの映画でなされた「ゾンビが人を襲う」という発明が、なぜこれほど繰り返し作られるのか。私は奇妙に思いながら、さまざまなゾンビを観てきた。


そしてある時、ふと思い至ったのだ。ゾンビはルールであり、創作の制約なのだと。ゾンビは弱い・群れる・感染るという制約のもと、どこまで新しい物語を作ることができるか。それは時代や世代を超越して競う、知的な競技なのではないか。ゾンビ映画やドラマを作ることは、ルールに則り、時にルールを逸脱し、あるいはルールをメタ化して、ゾンビというモチーフと制約を更新しようとすることだと気付いて以降、私は世界中のアイデアと工夫を享受することに夢中になっていた。だから私は、ゾンビが好きなのだ。


そして私は、ジョーカーも好きだ。映画JOKERを観て思ったことです。おそらくジョーカーも、ジョーカーという「ルール」を踏襲して、さまざまな人がジョーカーを更新する物語を生み出そうとしている。ジョーカーのルールとは、超人的な力を持ちあわせていない・善悪のラインが見えない・部外者である、といったところだろうか。おそらく私たちはこれからも、さまざまな映画によってジョーカーへの想像力と工夫を味わえるはずで、楽しみだ。ちなみにいまのところ私は、ダークナイトのジョーカーがいちばん好き。



ゾンビタウンイズバッド(8コマ)(小山コータロー 著)

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で、ここにもゾンビルールに則った作品がある。弱くて、群れ(ていたと推測できる)て、噛めば感染る。ただし小山コータローさんは、華麗にルールを逸脱する。噛まれれば「人間」が感染るのだ。感染が反転してしまうアイデアは、私にとって衝撃だった。


それはそうと小山さんも、自分の作品へ私が勝手にゾンビルールを適用してはとうとうと語られて、迷惑だと思う。だけどこれは、しばしば世界を反転させて不条理の彼岸を描く小山さんらしい作品にはちがいない。これを読んで、噛めば感染るという制約にも、まだまだ可能性の地平が広がっているように感じて、私はワクワクしてしまった。


小山さんにはどうか、噛めば人間になる世界のゾンビ模様を描く、逆・ウォーキング・デッドを連載してもらえないだろうか。きっと本家より、人間の不条理さが際立って描かれると思う。シーズン2くらいで終わりそうだけど。


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