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佐渡島 庸平(コルク代表)さんの作品:【漫画を描くポイント】読者を魅了するウソをつく

漫画を描く際のポイントはいくつもあります。また、そのポイントを知っていれば鑑賞するのももっとずっと楽しくなる。


本コーナーでは、そんな漫画のポイントをお届けします。

“話題のあのシーン”には、作者のどんな工夫や配慮があるのでしょうか? 


これまで、多くの作家の作品を見てきた佐渡島庸平さんが伝える漫画のポイント。ぜひ、制作に活かしてください!


今回は、『クロカン』のワンシーンからお届けします。


* * *


【概要】
『クロカン』は高校野球の監督を主人公にした三田紀房さんの漫画。群馬県立桐野高校の野球部を甲子園に出場させるべく、クロカンこと黒木竜次が采配を振るう。
ピッチャー・坂本拓也は150km/hを投げる豪腕の持ち主。しかし、チームの勝利は遠い。その理由は、キャチャー・浅井和史がその豪速球を受けることができないことにあった。速球への浅井の恐怖を取り除くには、どうしたらいいのか……?
















* * *

◆読者は気持ちよく騙されたい


(以下、佐渡島さん)

「キャッチャーが豪速球をどうしたら取れるようになるか?」


そう投げかけたときに、「恐怖心を払拭すること」という回答は誰もが思い浮かびますよね。新人漫画家であれば、「恐怖心を取り除く方法はこうだ!」とそのメソッドの解説を始めたりする。


では、三田さんは漫画で恐怖心払拭の方法をどのように描いたと思いますか?

答えは、「牛の糞尿が入った風船をキャッチすることで恐怖心をぬぐい去る」というもの。


どうです? かなり突拍子もない方法でしょう?

僕はその荒唐無稽な方法を描ききれるところに、三田さんのすごさがあると思っています。


だって、読者は漫画に事実を求めているわけでも、メソッドを求めているわけでもないんです。

「恐怖を消すために、3年間こんな努力を積み上げをして……」、みたいな話を読者は欲していません。


じゃあ、読者が求めているのはなにか?

それは、“気持ちよく騙してもらうこと”なんですよね。


『ドラゴンボール』では、気をためたらカメハメ波が出そうな気持ちになる。

『北斗の拳』は、高速攻撃をすると「ひでぶ!」と敵が倒れるのではないか、と思う。


読者はそんなパラレルワールドを見せてくれることを、漫画の中に求めているんです。


しかし、これまで築かれた正解主義から抜け出せない漫画家は、検索を駆使して現実路線の課題解決を描こうとしてしまうんです。


求められているのは正解ではなくて、大胆なウソをつき切ることなんですよ。


◆リアリティのあるウソを生む時間術


マンガの中のウソは読んでいる時はウソだと感じません。では、なぜうまいマンガはウソを感じさせないのでしょう。


漫画と現実が違うところは、時間を自由に飛ばせるところです。

ウソを感じさせない漫画家は、この時間の飛ばし方がうまい。


『クロカン』の先ほどのシーンでいうと、牛の糞尿の入った風船を取れたら、キャッチャーは次はもう150km/hの球を取れるようになっている。


強いヒーローが主人公のマンガでも、何年も何年も修行したシーンをつぶさに描くことはないですよね。読者が興ざめしないように時間を飛ばして、一気に強くなっている。


読者はヒーローが強いことは求めているけれど、強くなる過程を求めてはいないんです。

描かない、つまり、削るという判断が大事なんです。


◆事実で人は動かない


事実描写やロジックの通った設定を描けば、リアリティがある漫画になると思いがちです。


しかし、本当にそうでしょうか?


例えば、『仮面ライダー』。変身ベルトの構造について詳しく語られているでしょうか?

『デスノート』は他の部分は論理的に説明されているのに、肝心のデスノートの仕組みをつぶさに説明することはしていないんですよね。


これは、何を丁寧に描き、何をふわっとさせればリアリティが生まれるかを、作家がジャッチしているからなんです。

物語の中で、事実では人の感情は動かせず、ケレン味のあるウソにより動くのです。


新人漫画家のマンガを見ていると、きちんと描こうとしすぎて失敗してしまっているケースが多くあります。

マンガと向き合う際には、思い切りケレン味のあるウソをついていきましょう。


【ポイント】
・思い切って時間を飛ばせ
・詳細に描く部分とふんわりさせる部分のメリハリをつける
・ケレン味のあるウソをつく



聞き手・構成/佐藤智@sato1119tomo&コルクラボライターチーム

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