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シャープさんさんの作品:冬の訪れを告げ口する

まもなく冬だ、@SHARP_JPです。木枯らし1号や初霜のニュースだとか、紅葉や銀杏を目にした時だとか、それを見聞きしたことで冬を感じるように、家電から冬の訪れを知る、ということもないわけではない。少なくとも私はある。


ついさっきまで、よく冷えるぞと声を枯らして叫んでいたエアコン売り場が、手のひら返しで冷えた部屋をいかに暖めるかと、ドヤ顔をしだす瞬間。山ほど積まれた冷房のカタログもあっというまに隅へ追いやられる。カビが生えるからとあれほど忌み嫌っていた湿度を、今度はどのように部屋へ満たすかと解説するページにサイト更新する時。その頃にはあなたのインターネットに表示されるバナー広告も、寒色から暖色へと変わるだろう。


これらはぜんぶ、私の職場の風物詩だ。私のツイートだって、10月ともなれば扇風機も除湿機もTLからすっかり姿を消してしまう。私は、あれほど推していた推しをあっさり推し変する。それも毎年だ。我ながら信用ならんやつだと思う。


律儀に年2回、新機種が発売されるスマホも、いつしか冬スマホと呼ぶようになった。スマホに冬も夏もないだろうに。季節は人類の思惑を超えて巡るけど、製品は企業の思惑をガッツリ乗せてわれわれの暮らしを巡回する。なんとも身勝手な春夏秋冬だと思うが、広告も消費も季節にあわせて巡るのだと考えれば、そこになにか風情を見出せないだろうか。無理か。まあそうか。



「1Pマンガ」(まるいがんも 著)


ただし家電にはノスタルジーという風情がある。私が勤める家電メーカーも120年を超える歴史があるわけで、いまや家電は4世代くらいにわたり、生活に根付くモノとなった。石油ストーブやコタツと聞くと、いつかの冬を思い出し、どこか懐かしい気持ちになる人は多いだろう。


石油ストーブにしたってコタツにしたって、年々使われることが減っている家電だと思う。現に私が働くメーカーもかつては豊富な種類を擁していたが、いまは扱っていない。ひょっとしたら石油ストーブも、ストーブに灯油を入れる赤いポンプも、見たことがない若い世代もいるのかもしれない。


だがたとえ消えゆく家電でも、記憶に残る家電はある。いや記憶に残るというより、このマンガのように「記憶のシーン」に居続けるといったほうが正確だろう。寒い朝。湯気をあげるやかんの下のストーブ。やかんは鍋の時もあれば、ホイルに包まれた焼き芋の時もあったかもしれない。あるいは小学校の教室で、みんなの弁当を温めていたストーブを思い浮かべる人もいるだろうか。


いずれにしろ、ストーブはどうしようもなく冬を喚起させる。気温で冬の到来を知り、ひっぱりだしたストーブから過去の冬が掘り起こされる。もちろん石油ストーブがセラミックファンヒーターに置き換わったように、いまのストーブと昔のストーブはちがうけど、そこに「家電が暮らしに居続けた記憶」があることは、案外「いま家電を買う」行為に直結しているのではないか。そう考えると、私の殺風景な仕事にもほんのり風情が漂っている気がして、静かにうれしくなるのだ。 

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