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シャープさんさんの作品:空席

目まぐるしいのにのっぺりした日々、@SHARP_JPです。会社が遠方への出張を原則禁止していることもあり、東京へ出張に行かなくなってずいぶん経つ。つまり新幹線に乗らなくなった。


1年ほど前だから昔と呼ぶには大げさな気もするけど、その間に激変した世界とわれわれの日常のせいで、ひんぱんに新幹線に乗っていた日のことを思い返そうとすると、頭がぼんやりする。毎月2回か3回は、大阪と東京を往復していたというのに。


もともと旅に出ることに億劫さが先立つ質だから、出不精な私の中では出張に旅が重なるところがあって、新幹線の移動はいつも、ささやかな旅気分を感じて楽しかった。ひとり仕事が多いせいで、出張もたいていひとりだったし、そこに一人旅の気ままさを疑似体験していたのかもしれない。


だから私は出張でもどこか呑気なところがつきまとい、新幹線に乗っていても「この車両に乗り合わせた人すべてに行く先と約束があるのか」と、自分の仕事は棚に上げ、他人の用事を空想する癖さえあった。


そうやって他人の移動の理由をひとつひとつ想像するうちに、いま高速で移動する新幹線はいったいいくつの用事を乗せているかを考えて身震いし、そしてきまって、世界中で毎分毎秒交わされる約束とそれを果たそうとする人間の移動の膨大さに、頭がクラクラしてくるのだった。


そして現在。移動することがなくなったわれわれの約束は、どこにいったのか。用事をぎゅうぎゅうに乗せていた新幹線は、いま何を乗せて走っているのだろう。



夜行バスにゆられて(みりこ 著)


こちらは長距離バスである。夜行バスによる一人旅の思い出が描かれている。はじめての一人旅。はじめての土地。はじめてのチェックイン。だれかの思い出はマンガで描かれることで鏡になる。自分の思い出が反射されて、初々しい緊張を思い出す。そういえば私も昔は、夜行バスで東京へ行っていた。ここで言う昔は一年前ではない。もっとずっと昔だ。


この一年は、乗り物が用事も思い出も乗せなくなった空白の時間なのだろう。ガラガラの乗り物は空気を運ぶようなものなんてよく言われるけれど、長距離を移動する乗り物が失ったのは質量だけではない。その空席には、だれかが旅に出る理由やだれかと会う約束があり、楽しかった思い出や仕事の疲れが運ばれる場所だったはずなのだ。そう考えると寂しくなってくる。出張ですら懐かしく、憧れの行動のように思えてくるのだ。


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